心不全通信 No.12「ステージA」

2023/10/19


心不全通信 No.12 2023年10月号を公開しました。

今回は「ステージA」について説明します。

  • ステ-ジAとは
  • 高血圧
  • 脂質異常
  • 糖尿病
  • 禁煙
  • 節酒
  • 身体活動・運動

心不全通信 No.12 2023年10月号

ステ-ジAとは

ステージAは、心不全のリスクはあるけれども、心不全はまだ発症していない状態です。
そのため、心不全のリスクとなる疾患の予防・治療が治療目標となります。
心不全のリスクには、高血圧、脂質異常、糖尿病・耐糖能異常、運動不足、喫煙、肥満などがあります。

高血圧

正常血圧と高血圧

血圧は、正常血圧、正常高値血圧、高値血圧、高血圧(Ⅰ度、Ⅱ度、Ⅲ度)、収縮期高血圧に分類されます。
診察室での収縮期血圧(最大血圧)が120mmHg未満で、さらに拡張期血圧が80mmHg未満であると正常血圧、収縮期血圧が140mmHg以上か拡張期血圧が90mmHg以上であると高血圧となります。
自宅で測る家庭血圧では、診察室よりも5mmHg低い、収縮期血圧115mmHg未満かつ拡張期血圧75mmHg未満が正常血圧です。

高血圧の予防

高血圧の予防に欠かせないのは、食塩摂取量の制限です。
食塩摂取の目標量は、「健康日本21(第二次)」では8g未満、「日本人の食事摂取基準(2020年版)」では、成人男性で7.5g未満、成人女性で6.5g未満とされています。
また、日本高血圧学会は、高血圧の減塩目標を1日6g未満にするべきとしています。
減塩のコツを知りたい方は、管理栄養士にご相談ください。

食塩相当量の換算方法

商品に記載される栄養成分表示は、ナトリウム(mg)で表示されていることがあります。
以下の式を用いて、食塩相当量を算出することができます。

食塩相当量(g) = ナトリウム量(mg) × 2.54 / 1,000

高血圧の治療をしましょう!

高血圧の人は4,300万人くらいいるとされており、そのうち40%くらいは高血圧の治療をしていません。
高血圧は自覚症状がほとんどないのですが、生活習慣病に関連した死亡に、喫煙とともに最も影響します。
もし完全に高血圧を予防できると、年間10万人以上の人が死亡せずに済むとの推計もあります。
高血圧は、必ず治療をしましょう。

脂質異常

脂質異常とは、血液中の脂質の値が基準値から外れた状態のことで、LDL コレステロール(いわゆる悪玉コレステロール)、HDL コレステロール(いわゆる善玉コレステロール)、トリグリセライド(中性脂肪)の異常などがあり、いずれも動脈硬化と関連しています。

脂質異常の診断基準

脂質異常の診断基準は表のとおりですが、この基準に当てはまると、すぐに薬物治療が必要というわけではありません。
まず、食事療法・生活習慣の改善を試みて、それでも不十分な場合に薬物治療を始めます。

LDLコレステロール
140mg/dL以上 高LDLコレステロール血症
120~139mg/dL 境界域高LDLコレステロール血症

HDLコレステロール
40mg/dL未満 低HDLコレステロール血症

トリグリセライド
150mg/dL以上(空腹時採血) 高トリグリセライド血症
175mg/dL以上(随時採血)

Non-HDLコレステロール
170mg/dL以上 高non-HDLコレステロール血症
150~169mg/dL 境界域高non-HDLコレステロール血症

LDLコレステロール高値の要因と改善方法

食事で飽和脂肪酸を摂りすぎるとLDLコレステロールが高値になることがあります。
飽和脂肪酸は、肉の脂身(赤身ではなく白い部分。 バラ肉、ひき肉、鶏肉の皮も含む)・バターやラード・生クリームなどに多く含まれ、パームヤシやカカオの油脂、インスタントラーメンなど加工食品にも含まれています。
冷蔵庫の中で固まっている油脂は、飽和脂肪酸の多い油脂であることが多いです。
食事からのコレステロールもLDLコレステロールを高くしますが、個人差が大きく、飽和脂肪酸と比べると、その影響は小さく、食事からのコレステロールの上限に定まった見解はありません。
食事からの飽和脂肪酸と血中コレステロールとの関係は、食事からのコレステロールと血中のコレステロールとの関係よりも強く、LDL コレステロールが高い人は、まず飽和脂肪酸の摂りすぎを改善するべきで、鶏卵などコレステロールの多い食品の食べすぎにも注意すると良いでしょう。

家族性高コレステロール血症

家族性高コレステロール血症は、300 人に1人程度と比較的高頻度の遺伝性疾患です。
LDL コレステロールが高くなり、若い時から動脈硬化が進み、血管が細くなったり詰まったりする病気で、冠動脈で起こることが多く、心筋梗塞や狭心症を起こしやすくなります。
コレステロールが高く、若くして心筋梗塞、狭心症などを発症した血縁関係の人(親、兄弟、叔父、叔母、祖父母、子供など)がいる方は、特に注意が必要です。
家族性高コレステロール血症について、詳しく知りたい方は、当院循環器医にご相談ください。

中性脂肪高値の要因と改善方法

エネルギーを摂りすぎる、特に甘いものや酒・油もの・糖質を摂りすぎると中性脂肪が高値になることがあり、砂糖の入ったソフトドリンクを飲む習慣のある人に中性脂肪が高い人が多い傾向があります。
糖質の摂りすぎなどの食事習慣を改善し運動や減量を行うと、中性脂肪を下げることができます。
また背の青い魚に多く含まれるn-3 系(ω-3系)多価不飽和脂肪酸には、中性脂肪を下げる働きもあります。

HDLコレステロール低値の要因と改善方法

HDL コレステロール低値は中性脂肪の高値と連動することが多く、その要因は肥満や喫煙・運動不足なので、運動や減量・禁煙によりHDLコレステロールの上昇が見込まれます。
飲酒によりHDLコレステロールが高くなることがありますが、飲酒は高血圧や肝障害を悪化させるので、HDLコレステロールを上昇させるために飲酒するべきではありません。

糖尿病

ブドウ糖とインスリン

炭水化物は消化酵素によりブドウ糖に分解されて腸から吸収され血液の中に入ります。
血液中のブドウ糖の量が増えると膵臓からインスリンというホルモンが分泌され、血液中のブドウ糖を速やかに細胞内に取り込ませるように働きます。
ヒトは細胞に入ってきたブドウ糖をエネルギー源として利用して、筋肉を動かしたり、脳を働かせたりしています。

糖尿病と合併症

糖尿病は、インスリンの量が少なくなったり、その効きが悪くなったりして、血液中のブドウ糖が細胞に入ることができず、血液中のブドウ糖の量が多くなりすぎる病気です。
細胞に入ったブドウ糖はエネルギー源となりますが、細胞に入らない血液中のブドウ糖の量が多くなりすぎると、血管を傷つけたり、動脈硬化のリスクとなり、脳卒中や虚血性心疾患、失明や透析につながる糖尿病の3大合併症(網膜症、腎症、神経障害)が起こりやすくなります。

糖尿病の診断基準

血液中のブドウ糖の濃度のことを血糖値といいます。
空腹時の血糖値が126mg/dL以上、食事をとった後に測った血糖値(随時血糖値)が200mg/dL以上、あるいはHbA1cが6.5%以上と確認された場合には糖尿病である可能性が高くなります。
糖尿病の明らかな症状がある場合を除き、複数回の検査結果を総合的に判断して糖尿病と診断します。
特定健診では、血糖値異常を早期に発見するために、空腹時血糖値100mg/dL以上またはHbA1c 5.6%以上を高血糖の基準としています。

血糖測定時間 判定区分
空腹時 負荷後2時間
血糖値 126mg/dL以上 ◀または▶ 200mg/dL以上 糖尿病型
糖尿病型にも正常型にも属さないもの 境界型
110mg/dL未満 ◀または▶ 140mg/dL未満 正常型

糖尿病の予防

糖尿病の予防のためには、摂取エネルギー量をとりすぎないこと、運動をすること、アルコールをとりすぎないこと、喫煙しないこと、野菜や大豆製品、海藻、きのこなどを多くとることなどがあげられます。
特に、砂糖の入った飲み物をとりすぎる習慣のある人は、糖尿病のリスクが高まります。
肥満も糖尿病のリスクを高めますが、日本人ではやせていても糖尿病になりやすい人がいますので、肥満や過体重のない人でも注意が必要です。

それってなに? HbA1c(ヘモグロビン エー ワン シー)

HbA1cとは、ブドウ糖と結合しているヘモグロビンの割合のことです。
血糖値が高い状態が続くと、ブドウ糖と結合しているヘモグロビンが多くなりHbA1cが高くなります。
HbA1cは、だいたい2ヶ月くらいの血糖を反映しています。
血糖値は食事の影響によりその時々で変化しますが、HbA1cは直前の食事の影響を受けにくいので、糖尿病の指標として検査でよく利用されています。

禁煙

喫煙の影響

喫煙は心臓や脳に悪い影響を与え、心臓病や脳卒中の原因となります。
タバコの煙に含まれるニコチンは中枢神経を興奮させ、心拍数増加、末梢血管の収縮、血圧の上昇などを起こし心臓に大きな負担をかけます。
タバコの煙に含まれる一酸化炭素は、赤血球のヘモグロビンと結びつき、血液が酸素を運ぶ働きを妨げ、血管を詰まりやすくし、動脈硬化を促進させます。
喫煙は心臓病や脳卒中以外にも肺がんなどの悪性腫瘍や胃潰瘍・十二指腸潰瘍などの消化器の病気、喘息・慢性気管支炎などの呼吸器の病気、歯周病など、さまざまな病気の発症に深くかかわっています。

受動喫煙の影響

タバコの煙には、喫煙者がフィルターを通して直接吸い込む「主流煙」と、火のついた部分から立ち上る「副流煙」があり、ニコチンなどの有害物質が含まれる量は主流煙より副流煙の方がはるかに多く、喫煙は喫煙者だけでなく周囲の人の健康にまで悪影響を及ぼしています。
喫煙しない人が喫煙者と同じ空間にいて、副流煙を吸い込んでしまうことを受動喫煙といいます。

受動喫煙は、既に心臓病を患っている人に心筋梗塞などの発作を起こしやすくし、喫煙しない人の心筋梗塞、脳卒中、肺がんなどよる死亡のリスクを高めます。
受動喫煙の影響を最も受けやすいのは同じ家で暮らしている家族です。
親が喫煙者だと、その子供は気管支炎やぜんそく、アトピー性皮膚炎にかかりやすく、成長や視力、知能の発達にも悪い影響を及ぼすといわれています。

節酒

アルコールと循環器疾患

適量の飲酒は心筋梗塞などの発症リスクを下げ循環器疾患に保護的に働くとされていますが、過度の飲酒は循環器疾患のリスクになり、少量の飲酒でも結核や乳がんなどリスクを上昇させることがあるので、「節度ある適度な飲酒」を守ることが肝要です。
当然、現在飲酒していない人や飲めない人に飲酒を強要すべきではありません。

心臓によい飲酒量などない

2022年1月、世界心臓連合WHF は、適量の飲酒は心臓病のリスクを低下させるという広く信じられている考えに異議を唱えました。
「どの程度の飲酒量であっても、健康に生きられる時間を損なう原因になりうる。少量の飲酒でも、冠動脈疾患、脳卒中、心不全、高血圧性心疾患、心筋症、心房細動、動脈瘤などの心血管系疾患のリスクを高めることが様々な研究から明らかになっている。」ので、「心臓によい飲酒量などない。」と結論し、世界中で起こっているアルコール関連死や障害の過去に類を見ない増加に取り組むための緊急かつ決然とした行動を呼びかけました。
今後、飲酒の循環器疾患に対する見解が変化してくるかも知れません。

それってなに? お酒に強い体質と弱い体質

口から入ったアルコールは胃から20%、小腸から80%が吸収され、その大部分が肝臓で処理されます。
アルコールはアルコール脱水素酵素ADHなどによってアセトアルデヒドに、アセトアルデヒドはアルデヒド脱水素酵素ALDHにより酢酸に、酢酸は水と二酸化炭素に分解され、最後は汗や尿、呼気中に排出されます。このアセトアルデヒドが飲酒した時の悪酔いや頭痛、動悸の原因です。

悪酔いの原因となるアセトアルデヒドを分解するアルデヒド脱水素酵素ALDHには、アルデヒド濃度が低い時に働くALDH2と、高濃度にならないと働かないALDH1があり、ALDH2の活性が弱いか欠けていると、アセトアルデヒドが貯まりやすく、「お酒に弱い体質」になります。
ALDH2の活性は遺伝し、日本人の半数近くの人でALDH2の活性が弱いか欠けています。
ALDH2が欠けている人は、いくら訓練してもお酒に強くなることはないので、飲酒の無理強いをしてはいけません。
ところが、アルコールで全身の臓器に障害をきたすのは、むしろ「お酒に強いと言われる体質」の人なので注意が必要です。

身体活動・運動

身体活動(生活活動と運動を合わせたもの)を増加させると循環器疾患のリスクを減らすことができます。
「健康づくりのための身体活動基準2013(厚生労働省)」では、18~65歳の方は1週間に23メッツ・時、65歳以上の方は1週間に10メッツ・時の身体活動を薦めています。
安全で適正な運動強度での運動(有酸素運動、筋力トレーニング、バランストレーニングなど)を、生活習慣や嗜好を考慮して日常生活の中で行うと良いでしょう。
運動について詳しく知りたい方は、理学療法士にご相談ください。

運動の種類

有酸素運動 歩行、自転車エルゴメーター、リズミカルな体操など
筋力トレーニング 自身の体重やゴムバンドなどを使用する運動
バランストレーニング つま先と反対のかかとを揃えた立位など。
転倒防止にもなります。

それってなに? METs(メッツ)

メッツMETsとは身体活動(生活活動と運動を合わせたもの)の強度を表す単位で、国際的に使用されています。
安静時(静かに座っている状態)を1メッツとし、身体活動が安静時と比較して何倍のエネルギーを消費するかを表しています。安静時の2倍のエネルギーを消費する身体活動であれば2メッツとなります。
運動しているときの感覚で、「楽」に感じれば3メッツ、「やや楽」なら4メッツ、「ややきつい」なら5メッツという捉え方をしても良いです。
このメッツ(運動強度)に実施時間を掛けると、「メッツ・時」という身体活動量を計算できます。

メッツ 生活活動の例
1.8 METs 立ち話、立って電話をする、皿洗い
2.0 METs 非常にゆっくりした歩行(家の中)、料理や食材の準備、洗濯
2.3 METs ガーデニング、動物の世話、ピアノの演奏
2.5 METs 植物の水やり
3.0 METs 普通の速さの歩行(67m/分)、犬の散歩、電動自転車に乗る、立ってギターの演奏
3.3 METs 掃除機かけ、体を動かすスポーツ観戦
3.5 METs 散歩(75~85m/分)、モップかけ、床磨き、風呂掃除、庭の草むしり、車椅子を押す
4.0 METs 自転車に乗る(16km/時未満)、階段をゆっくり上る
5.0 METs 動物と活発に遊ぶ(歩く/走る)
5.8 METs 子どもと活発に遊ぶ(歩く/走る)
8.3 METs 荷物を上の階に運ぶ
8.8 METs 階段を速く上る
メッツ 運動の例
2.3 METs ストレッチ
2.5 METs ヨガ、ビリヤード
3.0 METs 社交ダンス、太極拳
3.5 METs 軽い筋トレ、家での軽い体操
4.0 METs 卓球、ラジオ体操第1
4.3 METs やや速めに歩く(94m/分)
4.5 METs 水中歩行、ラジオ体操第2
5.0 METs かなり速く歩く(107m/分)
6.0 METs ゆっくりとしたジョギング、のんびり泳ぐ
6.5 METs 山登り(4kg未満の荷物を持って)
7.0 METs ジョギング、スキー
8.0 METs サイクリング(約20km/時)
8.3 METs ランニング(134m/分)

次回は、『ステージB』について説明します。

【参考資料】

  • 禁煙のすすめ タバコをやめようかと思っているあなたへ:日本心臓財団
  • 心不全手帳(第3版):日本心不全学会,2022年
  • 高血圧の話:日本高血圧協会
  • 糖尿病治療ガイド2022-2023:日本糖尿病学会,2022年,文光堂
  • 心不全療養指導士認定試験ガイドブック(改訂第2版):日本循環器学会,2022年,南江堂

【参考ホームページ】

  • e-ヘルスネット〔厚生労働省〕
  • 心臓血管研究所付属病院
  • 日本心臓財団
  • 健康長寿ネット〔長寿科学振興財団〕
  • 人とお酒のイイ関係〔アサヒビール〕
  • 日本循環器協会
  • 国立循環器病研究センター
  • 日本健康運動研究所
  • 糖尿病情報センター〔国立国際医療センター〕
  • 健康チャンネル〔NHK〕
  • 日本動脈硬化学会
  • 「メッツ」で毎日の介護予防を〔藤井寺市〕

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