2022/02

心不全通信 No.7「心不全でも運動は大切!」



心不全通信 No7 2022年2月号を公開しました。

心不全とは

心不全は「心臓が悪いために、息切れやむくみが起こり、だんだん悪くなって、生命を縮める病気」です。
坂道や階段での息切れは、年齢のせいではなく心不全かもしれません。
今回は、「心不全でも運動は大切!」について説明します。

  • 心不全とは
  • 心不全は予防できることもある
  • 心不全でも運動は大切
  • 運動耐容能に基づいた運動処方
  • 運動耐容能の評価
  • 心不全の運動療法
  • 心不全の運動療法を安全に行うために
  • 記録は大切

心不全通信 No.7 2022年2月号

心不全は予防できることもある

心不全を引き起こす病気や食事・運動などの生活習慣に適切に対応することで、心不全を予防し、悪化・再発を回避することができる場合があります。
たとえば、高血圧を治療すると心不全の発症を抑制し生命予後を伸ばすことができます。
冠動脈疾患や肥満・糖尿病の適切な生活習慣の改善や治療は心不全の発症予防と生命予後の改善のために大切です。
禁煙は心不全の死亡率や再入院率を軽減し、飲酒者の適量の飲酒習慣は心不全の発症を抑制するとのデータがあります。
とはいえ、飲酒習慣がない人が無理に飲酒する必要はなく、飲みすぎは心不全だけでなく身体にとっても良くないです。
また、適度な身体活動や運動習慣は心不全の発症を抑制します。

心不全でも運動は大切

以前は、心臓に病気がある人は絶対安静が基本でしたが、過剰な安静は身体機能の低下をもたらし寿命を短くすることが明らかになったので、現在では、適度な運動をすることが勧められています。

運動耐容能に基づいた運動処方

運動療法は、運動の種類、運動の強さ、運動の時間、運動の回数などによって心臓への負担が異なります。
そのため、心不全の運動療法を安全に実施するには、心不全の状態に応じた個別の適切な運動、すなわち、その人の運動耐容能に応じた運動を「運動処方」に基づいて実施すべきです。
自己判断による不適切な運動は危険な場合もあります。

運動耐容能の評価

心不全の人の運動耐容能を評価する方法には、心肺運動負荷試験と6分間歩行試験などがあります。

心肺運動負荷試験

自転車エルゴメーターやトレッドミルなどを用いて運動しながら同時に呼気ガス分析を行って運動耐容能を評価する方法で、特別な装置が必要です。
当院で実施することはできませんが、この検査が必要な方には、川崎医科大学循環器内科に依頼して実施しています。

6 分間歩行試験

特別な設備を必要としない評価方法です。
最大に努力して6 分間で歩行できる距離を測定する方法です。
当院でも実施しています。

心不全の運動療法

心不全の運動療法(心臓リハビリテーション)は、心不全の悪化による再入院を防ぐことを目的に行います。
心不全だけに限りませんが、運動療法はウォームアップ、主運動、クールダウンから構成されます。

ウォームアップ(準備体操)

身体を安静から運動へ移行させる準備で、骨格筋を収縮・進展させ、血液循環を促します。
ウォームアップで実施されるストレッチングは、筋肉・靱帯・腱などやそれらを互いに結合する組織の伸展性を高め、関節の可動域を広げます。
ストレッチングは、静的なストレッチングと動的なストレッチングを組み合わせることが好ましく、静的なストレッチングは「気持ち良い」と感じるくらいの強さで、ひとつの動作を30秒程度実施することが望ましいです。

主運動 有酸素運動とレジスタンス運動

心不全の運動療法では、有酸素運動とレジスタンス運動を併用して行います。

有酸素運動

心肺運動負荷試験のデータに基づいて行うのが好ましいです。
ウォーキング、自転車エルゴメーター、軽いエアロビクスなどが勧められます。
ジョギング、スイミング、テンポの速いエアロビクスダンスなどは好ましくないです。
5~10分程度の短い時間から開始し、徐々に目標の運動時間まで少しずつ増やし、安定期にある心不全では1日20~60分まで運動時間を増やします。
頻度は、心臓機能の程度により異なり、週3~5回程度が好ましいとされています。

レジスタンス運動

一般的には「ややきつい」と感じるレベルで行います。
軽量のダンベルを利用したものや特別な器械や器具を必要としない自重負荷による方法などがあります。
低強度の運動から始め、心不全の徴候がなければ徐々に適切な運動強度まで少しずつ増します。
息こらえをしながら行うと過度な血圧上昇を引き起こすことがあるので、声を出して数を数えながら実施するなど息をとめないように行うのがコツです。
毎日行わず、週2~3回程度、1日おき程度での実施が好ましいとされています。

クールダウン(整理体操)

運動終了後の過度の血圧低下や目眩などの自覚症状の出現を回避するために必要です。
低負荷の運動やストレッチングなどの整理体操により、徐々に安静時の心拍数や血圧に戻すために行う運動です。

心不全の運動療法を安全に行うために

運動してはいけない時

息切れが悪化している、安静にしていても息が切れる、体重やむくみが増している、動悸、倦怠感、めまい、食欲不振があるなど心不全の悪化を疑う自覚症状や身体所見があるときは運動療法をしてはいけません。

運動は家族・友人と一緒に行う

高齢者の心不全では、運動耐容能が低く、持続的な有酸素運動が困難な場合が多いので、有酸素運動よりレジスタンス運動の重要性が高くなります。
また、運動療法中の心血管イベント発生リスクが若い人より高いので、はじめは病院や施設などのリハビリスタッフがいる環境で行います。
安全に運動療法を行うことができると確認された人は、自宅でも運動療法(運動処方に基づくことが望ましい)を行います。
その場合でも、心血管イベントの発生に備えて、家族や友人などと一緒に行う方がより好ましいです。

運動は食後2時間程度経過してから行う

食事直後は、食物の消化・吸収のため腸管の血液の需要が増加するので、食事直後に運動すると腸管や骨格筋への血液の需要に対する血液の供給が不足して心不全の徴候の出現や心不全の増悪を招く危険性があります。
そのため、食後2時間程度経過してからの実施が好ましいです。

ウォームアップとクールダウンは必ず行う

安全に心不全の運動療法を実施すために、運動を始める時にはウォームアップを、運動を終わる時にはクールダウンを必ず行います。

安静時の状態に戻らない時は主治医に相談

運動療法終了後も血圧や脈拍数が安静時の値まで改善しない、疲労感や呼吸困難感が残っている場合は、心不全の増悪や運動が過度になっている可能性がありますので、主治医にご相談ください。

気温や湿度にあった服装

運動を実施する際には気温や湿度などの環境に合わせた服装で運動します。
特に、気温が高い夏季では発汗の透過性を保てるものが、気温が低い冬季では保温にも配慮した服装が好ましいです。

脱水にならないように水分摂取する

発汗による脱水を回避するために、水分摂取をこまめに行います。

記録は大切

安全に運動療法を行うために、心拍数、血圧、脈拍などを計測しながら行うようにします。
また、心不全の増悪の徴候を早期に発見するために、脈拍数、血圧、体重、食欲や疲労感などの自覚症状の推移の記録をつけることが好ましいです。
記録する方法には、心不全手帳などに記入する方法以外に、スマートフォンを利用した簡便な方法もあります。
興味のある方は、岡本医師(心不全外来担当)に、ご相談ください。

【参考資料】

  • 心血管疾患におけるリハビリテーションに関するガイドライン(2021年改訂版):日本循環器学会
  • 急性・慢性心不全診療ガイドライン(2017年改訂版):日本循環器学会
  • 心不全療養指導士認定試験ガイドブック:日本循環器学会、南江堂、2020年
  • 心不全の心臓リハビリテーション改訂版:ジャパンハートクラブ編
  • 心不全手帳(第2版):日本心臓財団

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