2021/10

心不全通信 No.6「心不全の原因となる不整脈に対する非薬物療法」



心不全通信 No6 2021年10月号を公開しました。

心不全とは

心不全は「心臓が悪いために、息切れやむくみが起こり、だんだん悪くなって、生命を縮める病気」です。
坂道や階段での息切れは、年齢のせいではなく心不全かもしれません。
今回は、心不全の原因となる不整脈に対する非薬物療法について説明します。

  • 心不全とは
  • 心臓が拍動するしくみ
  • 不整脈とは
  • 期外収縮(脈がとぶ)

心不全通信 No.6 2021年10月号

心臓が拍動するしくみ

心臓は1日に約10万回も拍動してポンプ機能をはたしています。
心臓のなかを電気信号がタイミングよく、一方通行で伝わることによって、心臓は規則正しく拍動し、それが“脈”として観察されます。
この電気信号は、心房にある洞結節でつくられ、心房を収縮させた後、房室結節などの刺激伝送系(心臓にある電線のようなシステム:洞結節→房室結節→ヒス束→右脚・左脚→プルキンエ線維)によりタイミングよく心房から心室へと伝えられて、心臓は拍動します。

不整脈とは

不整脈は、心臓の拍動(収縮と弛緩の繰り返し)が不規則だったり、遅くなったり、速くなったりすることよって、脈が不規則になったり(期外収縮)、遅くなったり(徐脈)、速くなったり(頻脈)するものです。
脈は、息を吸うと速くなり、吐くと遅くなり、運動や体温の上昇で速くなりますが、これは生理的な正常な反応で、不整脈ではありません。

期外収縮(脈がとぶ)

期外収縮は、もっとも多い不整脈で、30歳を過ぎるとほとんどの人にみられ、年齢に従って増えてきます。
期外収縮には、心房性期外収縮(電気信号が洞結節以外の心房から発生)と心室性期外収縮(電気信号が心室から発生)があります。
いずれの期外収縮も脈が1回とんだように感じます。
これは、通常より早く心臓が収縮することで、押し出される1回分の血液の量が少なくなり、脈として感じることができなかったためです。
期外収縮があっても、多くの場合で何も症状はありませんが、喉や胸の不快感、動悸、キュッとしたごく短時間の胸の痛みを感じることもあり、連続して起こると一時的に血圧が下がって、めまいや動悸を感じることもあります。
期外収縮は自律神経のバランスが崩れた時に起こることが多く、睡眠不足、過労、ストレス、アルコールやカフェイン飲料の摂りすぎなどが誘因となり、年齢や体質的な理由で起こります。
多くの場合で病気とは関係ありませんが、期外収縮から危険な不整脈になる可能性がないか調べておいた方がよいでしょう。

徐脈(脈が遅い)

脈拍数が50 回/分より少ないのが徐脈です。
主な原因は、「洞結節」や「房室結節」に起こった電気信号の異常です。
電気信号がつくられなかったり、電気信号が途中でストップしたりするために起こります。
加齢や動脈硬化の進行している人で起こりやすく、甲状腺ホルモンの分泌低下や薬の副作用で起こることもあります。
直接的に生命に関わることはありませんが、息切れやだるさ、足のむくみなどの症状があり、脳への血流が不足するとめまいや失神を起こすこともあります。

洞不全症候群

右心房にある洞結節に異常が生じ、心臓を動かす電気信号が極端に少なくなったり、発生しなくなったりした状態です。

房室ブロック

房室結節に異常が生じて心室に電気信号がうまく伝わらなくなった状態です。
房室ブロックでは非常に不規則な脈になり、失神や心不全、突然死を起こすこともあります。

徐脈の治療

多くの場合で生命に関わることはないので、自覚症状がなければ経過観察のみで特に治療をしないことが多いです。
徐脈により失神を起こす場合や息切れや倦怠感のために日常生活に強く支障がある場合には、ペースメーカーが必要となることもあります。

ペースメーカー

ペースメーカーは鎖骨下あたりの胸部皮下に植え込んだ本体と心臓内に留置したリード線からなり、本体で電気刺激を一定リズムで発生させ、リード線を通して心臓に伝えて心臓を拍動させます。
以前はできなかったMRI撮影に対応したものやリード線がない直接心臓内に植え込むカプセル型のリードレスペースメーカーもあります。
手術は2~3時間程度で、1週間程度の入院が必要です。
植え込み後は3〜6ヶ月に1回外来でチェックをしますが、遠隔モニタリングで自宅でのチェックも可能です。
電池寿命は10 年程度で、電池がなくなると本体を交換します。

心臓再同期療法(CRT)

心不全や心筋梗塞では、しばしば心臓内を電気信号がタイミングよく伝わらないために心臓の収縮タイミングのズレが起こり心臓のポンプ機能が低下します。
CRT は心臓の収縮のタイミングを修正(再同期)することでポンプ機能を改善させる重症の心不全専用のペースメーカーです。
ペースメーカーと同様の手術で、本体の植え込みとリード線を留置します。
心不全が安定している場合で、7〜10日程度の入院が必要です。
電池の寿命はCRT の作動状況により異なり、2~8年程度です。

頻脈(脈が速い)

脈拍数が100回/分より多いのが頻脈です。
電気信号が異常に早くつくられたり、異常な電気信号の伝達路ができたりして電気信号が空回りすることで起こります。
頻脈には「頻拍」と「細動」があり、電気信号の発生が100回/分以上のものが頻拍、250回/分以上のものが細動です。
細動では、電気信号が速すぎて心臓が対応しきれず、拍動が不規則で弱くなります。
心房に細動が起こるのが「心房細動」、心室に細動が起こるのが「心室細動」です。
心房細動は脳梗塞を、心室細動は突然死を起こす危険性があり、もっとも危険なタイプの不整脈です。

心房細動

心臓は洞結節から出る電気信号により60~100回/分程度のリズムで動いていますが、心房細動では、複数の電気信号が心房内を走り回って、400~600回/分の速さで心房が細かく震えるような状態になっています。
約半数の方には症状がなく、脈の乱れ、動悸、めまいなどを感じることもあります。
直接的に生命に関わることはありませんが、心房細動がある人は、脳梗塞が5倍程度、心不全が4倍程度、心房細動がない人より起こりやすくなります。

心房細動の治療

薬物療法

抗不整脈薬により症状の緩和はある程度できますが、心房で起こる異常な電気信号の発生を抑え完全に心房細動を予防することはできません。
薬の種類により、心機能の低下、徐脈、血圧低下などの副作用があり、心不全を悪化させることもあります。

肺静脈隔離術

心房細動の原因となる異常な電気信号は主に肺静脈あたりから起こります。
異常な電気信号が心臓全体に伝わらないように、電気信号の通路を遮断するのが肺静脈隔離術で、カテーテルアブレーション治療(高周波エネルギーを通電して焼く)とクライオバルーン治療(亜酸化窒素ガスを使用してバルーンで冷却焼却する)があります。
通常、4~5 日程度の入院が必要です。

心室細動

心室が細かく震えている状態で、拍動することができず心停止状態になります。
心室細動になると脳への血液供給も不足し、発症から6秒で気を失い、3分で脳は重いダメージを受けます。
突然に意識を失い呼吸がない人を発見したら、直ちに心臓マッサージ(胸骨圧迫)を行い、AED(自動体外式除細動器)を使用する必要があるのはこのためです。
心臓に病気がある人(心筋梗塞や心筋症、重症の心不全、大動脈狭窄症など)や心室頻拍がある人は心室細動を起こしやすく、遺伝的な要因もあるので血縁者が不整脈で突然死した人がいる場合は注意が必要です。

心室細動の非薬物治療

植込み型除細動器(ICD)

ICD は、拍動を監視し、心室頻拍や心室細動が起こると自動的に電気ショックを与えて拍動を正常に戻します。
ペースメーカーと同様の手術で、本体の植え込みとリード線を留置します。7〜10日程度の入院が必要です。
植え込み後は数カ月に1回程度、ICDの電池残量の確認などのための定期検査が必要ですが、遠隔モニタリングができるICDでは自宅でチェックを受けることもできます。
電池寿命は5~10年程度で、作動頻度が多いと短い期間での電池交換手術が必要となります。

【参考資料】

  • 不整脈薬物治療ガイドライン(2020年改訂版):日本循環器病学会
  • 心不全療養指導士認定試験ガイドブック:日本循環器学会、南江堂、2020年
  • 不整脈の薬物療法:月間薬事、Vol62,No.15:2020年

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