心不全通信 No.8「心不全の人の食事」

2022/06/09

心不全通信 No.8 2022年6月号を公開しました。

心不全は「心臓が悪いために、息切れやむくみが起こり、だんだん悪くなって、生命を縮める病気」です。坂道や階段での息切れは、年齢のせいではなく心不全かもしれません。
今回は、「心不全の人の食事」について説明します。

  • 心不全とは
  • 心臓に良い食事パターン
  • 食事バランスガイドを活用しましょう
  • 朝食を摂り、遅い時間の夕食は避けましょう
  • 心不全の食事療法の目標
  • 食品の心臓への影響

心不全通信 No.8 2022年6月号

心不全とは

心不全は「心臓が悪いために、息切れやむくみが起こり、だんだん悪くなって、生命を縮める病気」です。坂道や階段での息切れは、年齢のせいではなく心不全かもしれません。

今回は、「心不全の人の食事」について説明します。

心臓に良い食事パターン

日常的な食事は種々の食品の組み合わせなので、個別の栄養素だけでなく、摂取する食品の組み合わせ(食事パターン)にも配慮することが大切です。
心血管イベントの予防に有用な食事パターンには、地中海沿岸諸国の地中海食や米国国立衛生研究所が推奨するDASH食などがあり、日本食パターンも心血管死のリスクを低下させます。
和食はユネスコ無形文化財に登録され、健康食としても世界的に注目されていますので、減塩を加味した日本食パターンの食事もお勧めです。

地中海食 魚,野菜,果物,ワイン,全粒穀物,オリーブ油,ナッツを多く含む食事
DASH食 野菜,果物,低脂肪の乳製品を多く摂り,肉類,菓子類,砂糖を含むソフトドリンクを減らす食事
日本食パターン
The Japan Diet
肉,油脂の摂取が少なく,大豆,魚,野菜,海藻,キノコ,果物などの摂取が多い食事

食事バランスガイドを活用しましょう。

栄養のバランスの良い食事は、心不全などの心疾患や糖尿病、高血圧、脂質異常症、脳血管障害、がんなどの生活習慣病の予防や悪化予防になります。
厚生労働省と農林水産省が発表した「食事バランスガイド」を参考にすると簡単に日本食パターンの栄養のバランスの良い食事を実践できます。
この「食事バランスガイド」は、食品を主食、副食、主菜、牛乳・乳製品、果物の5 つに分け、それぞれを1 日にどれくらい食べたら良いかを示しています。

朝食を摂り、遅い時間の夕食は避けましょう。

朝食を抜く人は肥満、糖尿病の発症、心血管イベントが増し、朝食を抜くことに加え遅い時間に夕食を摂る人はメタボリックシンドロームのリスクが高まります。

心不全の食事療法の目標

過不足のない適切な栄養やエネルギー摂取と健康的な体重の維持により、心不全が増悪しないようにすることが、心不全の食事療法の目標となります。
ただし、心不全は悪くなったり良くなったりを繰り返して次第に心機能や身体機能も低下し、栄養状態も悪化して、終末期に近づいて行きますので、その時期により心不全の食事療法は、その目標・注意点などが異なってきます。

塩分

塩分の過剰摂取は血圧を上昇させ心血管病のリスクを高め、体液貯留の原因となるので、1日6g未満にすることが推奨されています。
特に心不全では塩分の摂りすぎが心不全悪化の原因となることがあるので、塩分の過剰摂取にならないようにすることが重要です。
ただし、高齢者で塩分制限によって食事が味気なくなり食欲がなくなるようであれば、エネルギー確保を優先し、塩分制限にこだわるべきではないとも考えられており、このような時は主治医に確認してください。

水分制限

心不全での水分制限について明確な指標はないので、医師の指示がない限り、過剰な摂取を控えることで良いです。
1日に必要な水分量は、食事中の水分も含めて30~40mL/kg/日ですが、これは年齢によって異なり、75歳以上では少なくとも25mL/kg/日は摂るべきとされています。
高齢者では加齢とともに口渇中枢の働きが低下するので、環境や体調によって水分摂取を勧めるなどの支援も必要です。

カロリー(エネルギー)

カロリーの摂りすぎは、体重の増加につながります。
WHO はBMI が25kg/m2 以上を過体重、30kg/m2 以上を肥満としていますが、日本人ではBMIが25kg/m2を超えたあたりから耐糖能障害、脂質異常症、高血圧などが増えてくるので、25kg/m2以上を肥満としています。
心臓のポンプ機能が保たれた心不全は肥満の人に多いという研究もありますが、BMI が18.5kg/m2 未満のやせた人は脳梗塞、脳出血のリスクが高くなるので痩せすぎにも注意が必要です。
成人以降の体重増加も冠動脈疾患のリスクとなります。
20 歳代にBMI が21.7kg/m2 未満であった人が、その後10kg以上体重が増加すると冠動脈疾患のリスクが2 倍に増えるので、成人早期から普通体重(18.5~24.9kg/m2)を維持するようにするべきです。

タンパク質

中等症以上の腎機能障害がなければ、慢性心不全などでは1.2~1.5g/kg/日のタンパク質を摂取すると良いでしょう。
中等症以上の腎機能障害がある時は、サルコペニア(高齢期にみられる骨格筋量の低下と筋力や身体機能の低下した状態)やフレイル(年をとって体や心のはたらき、社会的なつながりが弱くなった状態)にならないように30kcal/kg/日以上の十分なエネルギーと0.6~0.8g/kg/日のタンパク質を摂取すると良いでしょう。

脂質

ヒトは脂質、炭水化物、タンパク質からエネルギーと摂っており、脂質から得るエネルギーの割合を「脂肪エネルギー比率」といいます。
脂肪エネルギー比率が高くなると心臓病、メタボリックシンドローム、肥満のリスクが高くなります。
脂質はエネルギー源であると同時に細胞膜を作る必須の成分でもあり、脂質をつくる脂肪酸の種類によって身体への影響は大きく異なります。

飽和脂肪酸

飽和脂肪酸は、肉などの動物性脂肪や乳製品、パーム油などの植物油脂に多く含まれています。
動脈硬化への影響は少ないとの研究もあるのですが、LDL コレステロールを増加させ心筋梗塞を起こしやすくするので、過剰な摂取は控えるべきでしょう。
しかし、極端に減らすと脳出血が起こりやすくなるので、極端に摂取を減らすべきではありません。

不飽和脂肪酸(一価不飽和脂肪酸)

オレイン酸が代表的なもので、動物性脂肪やオリーブ油などに多く含まれています。
飽和脂肪酸よりLDL コレステロールを上昇させにくいので、心血管予防効果が“ある”という研究と“ない”という研究があります。
オリーブ油から一価不飽和脂肪酸を摂った場合には心血管死が減少したが、動物や植物から摂った場合には効果がなかったという研究もありますので、どのような食品から一価不飽和脂肪酸を摂取するかも重要なようです。

不飽和脂肪酸(多価不飽和脂肪酸 – ω3系不飽和脂肪酸)

ω3 系不飽和脂肪酸には、食用油由来のα-リノレン酸と魚介類由来のEPA、DHA があります。
EPA は二次予防効果(冠動脈疾患にかかったことがある人が再び冠動脈疾患に罹らないようにする効果)があるとされていますが、これらの報告は古い研究が多く、近年実施された研究では有効性が示されておらず,効果は限定的かもしれません。
また冠動脈疾患にかかったことがない人でも冠動脈イベント発生を抑制できるどうかについてはよくわかっていません。

不飽和脂肪酸(多価不飽和脂肪酸 – ω6系不飽和脂肪酸)

リノール酸が代表的なもので、大豆油やコーン油などの植物油に多く含まれています。
リノール酸は心血管疾患発症の予防に有用なのですが、ω6 系不飽和脂肪酸は体内で炎症を引き起こす物質(プロスタグランジン、ロイコトリエンなど)に変化して、冠動脈疾患を増やす可能性もありますので、過剰な摂取はさけるべきでしょう。

不飽和脂肪酸(多価不飽和脂肪酸 – トランス脂肪酸)

トランス脂肪酸を多量に摂取すると、HDL コレステロールが減少し、LDL コレステロールが増加して冠動脈疾患のリスクが高まるので、WHO はトランス脂肪酸の摂取量を総エネルギー摂取量の1%未満とするよう勧告しています。
この勧告に従うと、日本人では1 日あたり約2g未満となりますが、日本人が摂取しているトランス脂肪酸の量は0.9g 程度であり、健康への影響は少ないと考えられています。
近年、脂質を摂りすぎている人が増えてきています。
脂質エネルギー比率が高くなるとトランス脂肪酸の摂取も増える可能性がありますので、脂質の摂りすぎにならにようにしましょう。

食品の心臓への影響

魚は積極的に摂取するべきで、ω3 系不飽和脂肪酸のエイコサペンタエン酸(EPA)やドコサヘキサエン酸(DHA)を多く含む青魚などは、冠動脈疾患の予防に有用です。
週に8 回魚を摂取する人は、週に1 回だけの人と比べ、冠動脈疾患のリスクが37%少ないことやω3 系不飽和脂肪酸の摂取量が多いほど心血管死亡率が少なくなるとの研究があります。

赤身肉

肉の過剰摂取は心血管疾患のリスクになると言われていましたが、日本人の肉の摂取量程度(100 g/日未満)では心血管死は増加しないと考えられるようになっています。
ただし、動物性脂肪(飽和脂肪酸)の過剰摂取はコレステロールを上昇させる要因となるので、脂肪が少ない赤身肉を選ぶほうが良いです。
また、過度に肉食を控え飽和脂肪酸の摂取量が少なくなりすぎると脳血管障害のリスクが増えるので、適度な摂取が良いです。

加工肉

ハムやソーセージなどの加工肉を1日75g以上(ソーセージ1本15g として5本以上、スライスハム1枚10gとして7枚以上)摂取する人は、1日25g未満の人と比べて、心不全発症リスクが1.28倍、心不全死亡リスクが2.43倍増えるとの研究がありますので、過剰摂取には気をつけましょう。

野菜、果物

野菜、果物はビタミン、ミネラル、繊維質を豊富に含み、心血管死の減少に有用との報告があり、野菜、果物が一品食卓に増えることで心血管死のリスク低下につながります。

全粒穀物

全粒穀物(糠となる部位を除去していない穀物やその製品)は、食物繊維、ビタミン、ミネラルなどを多く含み、冠動脈疾患の予防や心血管死のリスク減少効果があります。

ナッツ

ナッツは不飽和脂肪酸、繊維質、ビタミン、ミネラルを豊富に含み、冠動脈疾患の発症リスクを減少させるとの研究があります。

アルコール

アルコールは心毒性を有することから、過剰な摂取はアルコール性心筋症のリスクとなりますが、軽度のアルコール摂取は心不全発症のリスクを低下させます。
心血管予防のために飲酒習慣のない人が飲酒する必要はありませんが、飲酒習慣がある人では、純アルコールで1日30g未満の摂取にとどめると良いでしょう。

清涼飲料水(加糖飲料)

清涼飲料水や加糖飲料の多量摂取は、過剰エネルギーにつながり、肥満、糖尿病のリスクを高めます。
カロリーゼロを謳った人工甘味料を使用した清涼飲料水も糖尿病の発症に関与する可能性があるので、注意が必要です。

次回は、「人生会議と心不全の緩和ケア」について説明します。

【参考資料】

  • 心不全療養指導士認定試験ガイドブック,日本循環器学会,南江堂、2020年
  • 心不全患者における栄養評価・管理に関するステートメント,日本心不全学会ガイドライン委員会,2018年
  • 農林水産省ホームページ,トランス脂肪酸について
  • 厚生労働省ホームページ,「食事バランスガイド」について
  • 日本サルコペニア・フレイル学会ホームページ
  • 食べて元気にフレイル予防,厚生労働省 令和元年度食事摂取基準を活用した高齢者のフレイル予防事業

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