お知らせ


心不全通信 2023年6月号を公開しました。

2023/06/02 お知らせ


心不全通信 No11 2023年6月号を公開しました。

今回は「心臓の構造・働きと心不全」について説明します。

  • 心臓の構造
  • 電気信号(刺激伝導系)
  • 冠動脈
  • 心臓の役割
  • 心不全の定義
  • 心不全の分類
  • 心不全による症状や徴候
  • ポンプ機能低下(血流低下)による症状
  • うっ血による症状
  • 心不全の病の軌跡
  • 心不全の4つのステージ

心不全通信 No.11 2023年6月号

心臓の構造

心臓は4つの部屋(左右の心房・心室)に分かれています。
心室と心房の間、心室から血管への出口には“弁”があり、血液が逆流することなく一方通行で流れるようになっています。

聴診器で弁が閉じるときに聞こえる音が“心音”です。

電気信号(刺激伝導系)

心臓を収縮する合図は、右心房の上大静脈の開口部近くにある洞結節から始まります。
洞結節で発生した電気信号は、左右の心房の中を伝播して房室結節に伝わり、その後、ヒス束→左脚右脚に分枝して、心室にあるプルキンエ線維から心室に伝わります。

この電気信号がタイミングよく、スムーズに心臓内を伝わることで、心臓が収縮して心臓から血液が拍出されます。
この電気信号の発生や伝導に異常が生じると不整脈が起こります。

冠動脈

冠動脈は、心臓が活動するために必要な酸素や栄養を心筋に供給しており、左心室から出ている大動脈が左右2本に、さらに心臓の表面で枝分れし、最後は心臓全体を血液が循環できるようになっています。
冠動脈が詰まると心筋梗塞になりますが、心臓への影響は冠動脈が詰まった部位により異なります。

心臓の役割

心臓の主な役割は、ポンプ機能(身体の必要に応じて血液を安定して身体に供給すること)で、「収縮機能」と「拡張機能」という2つの機能でポンプ機能をはたしています。

収縮機能は、心臓を収縮させて血液を全身へ送り出す機能で、拡張機能は全身から戻ってきた血液を心臓に取り込む機能です。
心臓には、運動とか心筋梗塞などの身体に生じる様々な変化に対応できるように、ポンプ機能を調節する機構(代償機構)が備わっているのですが、この代償機構が破綻して身体が必要とする量の血液を供給できなくなると心不全になります。

心不全の定義

心不全は、「なんらかの心臓機能障害、すなわち、心臓に器質的および/あるいは機能的異常が生じて心ポンプ機能の代償機転が破綻した結果、呼吸困難・倦怠感や浮腫が出現し、それに伴い運動耐用能が低下する臨床症候群」と医学的には定義されています。
簡単に、『心不全は、心臓が悪いために、息切れやむくみがおこり、だんだん悪くなり、生命を縮める病気』と理解すると良いでしょう。

心不全の分類

心不全は、発症や進行経過、左室の収縮機能、原因となる心臓の部位などにより分類されます。

急性心不全と慢性心不全

心不全は、病状の発症・進行の経過によって、急性心不全と慢性心不全に大別されます。
急性心不全は、心筋梗塞や突然に起こった不整脈などによって急激に心臓のポンプ機能が弱まり、時間や日にち単位で発症・進行する心不全です。
慢性心不全は、高血圧などにより月や年単位で進行・悪化する心不全です。

「ヘフレフ」と「ヘフペプ」

心不全は、収縮不全(左心室の収縮機能が低下すること)によって起こるものと、収縮機能は保たれているにもかかわらず、拡張不全(左心室の拡張機能が低下すること)によって心臓へ血液が戻りにくくなり、体内に血液が滞留することで起こるものがあります。
収縮不全により心臓のポンプ機能が低下している心不全をヘフレフ(HFrEF)といい、心臓の収縮機能は保たれているけれど拡張不全のために起こる心不全をヘフペフ(HFpEF)といいます。

心不全の約半数がヘフペフで、高齢の女性に多く、高血圧や糖尿病などを併存していることが多いです。

ヘフレフとヘフペプでは、有効な薬物療法に違いがあります。
ヘフレフとヘフペフの中間の心不全は、ヘフエムレフ(HFmrEF)です。

ヘフレフ(HFrEF) Heart Failure with reduced Ejection Fraction
ヘフエムレフ(HFmrEF) Heart Failure with midrange Ejection Fraction
ヘフペフ(HFpEF) Heart Failure with preserved Ejection Function

左心不全と右心不全

左心房・心室が原因で起こる心不全が「左心不全」で、右心房・心室が原因で起こる心不全が「右心不全」です。
両方が悪くなる両心不全もしばしばあります。

心不全による症状や徴候

心不全による症状や徴候には、ポンプ機能低下(心臓が血液を全身に十分に送り出せない)によるものとうっ血(心臓が全身に血液を送り出せないために体内に血液が滞留する)によるものがあります。

ポンプ機能低下(血流低下)による症状

だるい(倦怠感)、疲れやすい

心不全で臓器に供給される血流が減ると、運動するために必要な量の血液が筋肉に供給されなくなり、筋肉は酸欠状態となって、だるさや疲れを感じるようになります。

乏尿・夜間多尿

心不全の初期より、日中は活動のため必要な骨格筋に優先的に血液が配分され、腎臓への血流は減少して尿の量も減りますが、夜間に活動量が減ると腎臓への血流も増えてくるので、夜間の尿量が増えます。

精神神経症状

心不全で脳の血流の低下や肺うっ血による酸素不足により、意識障害や抑うつ・不安、せん妄などが起こることがあります。

手足が冷たい

心不全で末梢組織への血流が低下すると、四肢(手や足)は湿った感じがする冷たさがあり、血色が悪く、蒼白で、口唇や爪床にチアノーゼが起こることがあります。
脈圧の低下(脈圧収縮期血圧比が25%以下)では末梢組織での血流低下が強く疑われます。

うっ血による症状

体重の増加

心不全で心臓に戻るべき血液が心臓に戻ることができないと、臓器に「うっ血」が起こり、足がむくむ、胸水が溜まる、肺水腫などが生じます。
心不全で全身を循環する血液の量が減ると腎臓の血流も少なくなって、腎臓で作られる尿量が少なくなるので、腎臓から尿として体外に排出される水分も体の中にたまることになり、体重が増えます。

このように心不全で「体重が増える」ことは肥満ではなく、「体に水分がたまること」つまり「心不全の悪化」を意味します。
そのため、毎日の体重測定は、心不全の状態をしるために非常に大切です。

左心不全によるうっ血の症状

左心不全で心臓から送り出される血液が滞留すると、肺にうっ血が起こります。
安静にしている時には、なにも症状がないのですが、今まで大丈夫だった距離の歩行や階段のぼりでも息切れを感じるようになります。
重症化すると安静にしていても息切れを感じるようになり、発作性夜間呼吸困難や起座呼吸を認めるようになります。

これは心不全が原因で肺水腫(肺の毛細血管から血液の液体成分が肺胞内に滲み出た状態)となり、酸素と二酸化炭素の入れ替えがうまくできなくなったために起こります。
また、より多くの酸素を取り込むために、呼吸回数が多くなり、呼吸が浅く速くなります。

右心不全によるうっ血の症状

右心不全では、全身から心臓に血液が戻りにくくなります。そのため体重が増加し、足などに浮腫が起こります。
浮腫は重力の影響を受けるので、座位や臥位の状態が多い人では、足ではなく、最初に臀部や背部に浮腫があらわれ、その後上肢や顔面に浮腫があらわれることもあります。
また、腹部臓器にうっ血が起こると、胸水や腹水が溜まったり、腸管の動きが悪くなって食欲不振、便秘、悪心・嘔吐や腹部膨満感などが起こります。

【起座呼吸】

起座位(上体をほぼ90 度に起こした姿勢)で呼吸困難が改善し臥位になるとすぐに息切れするようになること。
起きているときは重力で下肢などに溜まっていた血管から漏れ出た体液が、臥位になると重力の影響が少なくなって血管の中に戻ってきます。
すると血管の中を流れる血液の量が増えることになり、心臓への負担が増して肺水腫になり息切れするようになります。

【発作性夜間呼吸困難】

寝る前に症状はないのですが、寝てから2~4時間後に息苦しさにより眠れなくなること。
夜間に咳や痰が出ることがあります。起座位をとると症状が改善することもあります。

心不全によるポンプ機能低下とうっ血に伴う症状
ポンプ機能低下 左心不全のうっ血 右心不全のうっ血
・易疲労感
・倦怠感
・乏尿・夜間多尿
・記銘力・集中力低下
・意識障害
・手足が冷たい
・動いた時の息切れ
・発作性夜間呼吸困難
・起座呼吸
・足のむくみ(浮腫)
・食欲不振
・便秘
・悪心・嘔吐
・腹部膨満感
・体重増加

心不全の病の軌跡

残念ながら、心不全は完全に治ることはなく、症状が良くなったり悪くなったりを繰り返しながら一方通行で進行していきます。
そのため、心不全と上手に付き合い、できるだけ心不全が進行しないようにすることが肝要です。

心不全の4つのステージ

心不全の療養は、4つのステージに分けて考えるとよいです。

ステージAとBは、まだ心不全の症状がでていない状態であり、心不全に進展させる要因(高血圧や糖尿病、心筋梗塞など)の治療を行うことで心不全にならないようにすることが治療目標となります。

ステージCは、心不全の症状が出現している状態であり、心不全の症状が急激に悪化するような事態(慢性心不全の急性増悪)をできるだけ回避することが治療目標となります。

ステージDは、いろいろな心不全の治療を行っても心不全の徴候が改善しない状態であり、心不全の治療を行いつつも緩和ケアや終末期ケアのウエイトが大きくなります。

次回は、『心不全ステージA』について説明します。

【参考資料】
<書籍・文献>

  • 日本心臓財団,心不全に負けずに健康長寿を目指そう,2020年11月
  • 日本循環器学会,心不全療養指導士認定試験ガイドブック改訂第2版,南江堂,2022年

<ホームページ>

  • 日本心臓財団
  • 日本循環器協会
  • 心不全のいろは
  • トーアエイヨー
  • バイエル薬品
  • 小野薬品工業
  • 日本ベーリンガーインゲルハイム
  • MEDLEY
  • Medical Note

心不全通信 2023年2月号を公開しました。

2023/02/02 お知らせ


心不全通信 No10 2023年2月号を公開しました。

心不全は「心臓が悪いために、息切れやむくみが起こり、だんだん悪くなって、生命を縮める病気」です。坂道や階段での息切れは、年齢のせいではなく心不全かもしれません。
今回は、「心不全の薬物治療」について説明します。

  • 心不全で起こる変化(代償機転)
  • 心不全の治療薬の効き方
  • 心不全の治療目標
  • 心不全の薬物治療
  • 心不全を悪化させないためには
  • 薬に興味を持つことが大切!

心不全通信 No.10 2023年2月号

心不全とは

心不全は「心臓が悪いために、息切れやむくみが起こり、だんだん悪くなって、生命を縮める病気」です。
坂道や階段での息切れは、年齢のせいではなく心不全かもしれません。

今回は、「心不全の薬物治療」について説明します。

心不全で起こる変化(代償機転)

心不全になると全身に血液などの体液を循環させるポンプ機能が低下します。
このポンプ機能の低下を補うために、脈拍が増えたり血圧が高くなったりといった様々な変化(代償機転)が起こります。

代償機転には、心臓に負担をかけるもの(心筋障害因子)だけでなく、心臓に優しいもの(心筋保護因子)もあります。
心臓に負担がかかりすぎて、代償機転のバランスが心筋障害因子のほうに崩れると、息切れなどの心不全の症状が起こります。

心筋保護因子

ナトリウム利尿ペプチド(ANP、BNP、CNPなど)は、心不全になるとより多く分泌されるホルモンの1つで、血管を広げたり、余分な水分やナトリウムを尿中に排出させたりして、循環させなければいけない体液量を減少させて心臓の負担を減らします。

ANP 心房性(A型)ナトリウム利尿ペプチド
BNP 脳性(B型)ナトリウム利尿ペプチド
CNP C型ナトリウム利尿ペプチド

心筋障害因子

心不全になると循環する体液の量が減り、血圧が下がってくるので、これを修正するために、体液の量を増やして、血圧を上げるような変化がおきます。

交感神経

交感神経は亢進して、心拍数を増加させて心拍出量を増やすことで循環する体液量を増加させ、末梢血管を収縮させて血圧を上昇させます。

レニン・アンジオテンシン・アルドステロン系(RAA 系)

RAA系という一連のホルモンの連携によって、血管を収縮させ、腎臓での水やナトリウムの再吸収を増やすことで、血圧を上げたり体液の量を増やしたりします。

抗利尿ホルモン

排尿量を減らすホルモン(抗利尿ホルモン)であるバソプレシンも血管収縮や腎臓での水の再吸収を増やすことによって、血圧を上げたり体液量を増やすように働きます。

心不全の治療薬の効き方

心不全の治療薬は、「心臓を保護する薬」「心臓を休ませる薬」「心臓を楽にする薬」「心臓を力づける薬」に分けると理解しやすいです。
これらの働きによって、心筋保護因子や心筋障害因子に作用して、崩れた代償機転のバランスを整えます。

心不全の治療薬

心臓を保護する薬 ACE阻害薬 ARB MRA ARNI
心臓を休ませる薬 β遮断薬 ジゴキシン イバブラジン
心臓を楽にする薬 利尿薬 SGLT2阻害薬
心臓を力づける薬 強心薬 ピモベンダン

心臓を保護する薬

ACE阻害薬:アンジオテンシン変換酵素阻害薬

ARB:アンジオテンシンⅡ受容体拮抗薬

心不全ではアンジオテンシンというホルモンが過剰に分泌されて体内のナトリウムの量が増えるので、心臓が循環させないといけない体液量が増え、血管も収縮して血圧が上昇するので、心臓に負担がかかります。
ACE阻害薬やARBは、アンジオテンシンの働きを抑えることで、心臓の負担を軽減し心臓を保護します。

副作用には、腎機能の低下、血圧の低下、血中カリウム値の上昇などがあります。
ACE 阻害薬では副作用として空咳がみられることがあり、副作用でACE阻害薬が使用できない時にはARBを使用します。

MRA:ミネラルコルチコイド受容体拮抗薬

MRAは、水分貯留や血圧上昇に関与するアルドステロンというホルモンの働きを抑え心臓を保護します。

副作用には、血中カリウム値の上昇、胸が張る(女性化乳房)などがありますが、新しいMRAでは女性化乳房が起こりにくくなっています。

ARNI:アンジオテンシン受容体ネプリライシン阻害薬

ARNIであるサクビトリルバルサルタン(エンレスト錠)は新しく使用できるようになった薬で、心筋保護因子のANPを増やす働きとARBの働きの両方の作用があります。
サクビトリルバルサルタンは、心不全による入院を減らすことができます。

副作用には、低血圧、高カリウム血症などがあります。

心臓を休ませる薬

β遮断薬

心不全では交感神経が興奮しすぎて過度の血圧上昇、脈拍増加などが起きており、心臓に負担がかかっています。
β遮断薬は、β受容体(心臓に多く存在している交感神経から指令を受ける受容体)の働きを抑えることで、血圧を下げたり、脈を遅くしたりして、働きすぎの心臓を休ませて心臓を元気にします。
少ない量から始め、血圧・脈拍・症状をみながら徐々に増やしていきます。

副作用には、血圧が下がりすぎる、脈が遅くなりすぎるなどがあります。

イバブラジン(コララン錠)

β遮断薬は、心拍数を下げるだけでなく、心臓のポンプ機能も下げる作用があり、心不全には少し好ましくありません。
新しく使用できるようなったイバブラジンは、心拍数を下げることに特化した薬で、心臓の拍動リズムを作り出している洞房結節に作用して、心臓のポンプ機能を悪化させることなく脈拍だけをゆっくりにします。

副作用には、目の症状(キラキラ、チカチカ、稲妻のような光が見える)や立ちくらみ、ふらつきなどがあります。

心臓を楽にする薬

利尿薬

心不全で余分な水分が身体にたまると浮腫がおこり、肺に水が溜まると息苦しさを感じるようになります。
利尿薬は、尿として余分な水分を体外に排出させて、うっ血の症状(浮腫、息苦しさなど)を軽減します。

利尿薬を服用すると尿が近くなることがありますが、自己判断で中止しないでください。
日常生活に困るようであれば、医師に相談してください。

SGLT2阻害薬

SGLT2阻害薬は、尿として水分とともに余分な糖も排出させて血糖値を下げることができるので、糖尿病の薬として使われています。
このSGLT2阻害薬は、余分な水分を尿として排出するだけでなく、心臓や腎臓にも良い働きをして心不全の予後も改善するので、心不全でも使用されるようになりました。
SGLT2 阻害薬を血糖値が高くない人が服用しても過剰に血糖値を下げることはないので、血糖値が高くない心不全の人が使用しても低血糖になる心配はありません。
発熱や下痢などで、食事ができないときには休薬が必要です。

副作用には、排尿時の違和感や痛み、ふらつきやだるさなどがあります。

心臓を力づける薬

強心薬:ピモベンダンなど

強心薬は、心臓の筋肉に作用して、心臓のポンプ機能を強くします。
強心薬を使用することは疲れている心臓に鞭打つことになり、生命予後を悪くすると考えられていますが、その使用により心不全の症状(倦怠感、息苦しさなど)を改善することができます。
そのため、「予後の改善」より「症状の改善」を優先したい場合に使用します。

ベルイシグアト(ベリキューボ錠)

新しく使用できるようになった薬です。
血管内では一酸化窒素(NO)が情報伝達の重要な働きをしていますが、心不全になるとNOが作用する受容体の機能不全が生じます。
ベルイシグアトは、NOが作用する受容体を直接刺激したり、NOが作用する受容体の感受性を高めたりすることによって、心臓収縮力を強めたり血管の機能を調節したりして心不全の進行を抑制します。

副作用には、脱力感、めまい、ふらつき、立ちくらみ、意識の消失などがあります。

心不全の治療目標

心不全は適切な治療を行っていても徐々に進展し突然死することもあるので、心不全になってからの治療だけでなく、心不全にならないようにする治療も大切です。
そのため心不全の治療目標は、上の図のように心不全を発症する前の段階(リスクステージ)を含めた4つのステージに分けて考えるとわかりやすいです。

心不全発症前の治療目標

心不全を発症する前の段階(リスクステージ)は、ステージA・Bが該当します。
ステージA・Bでは、心不全予防や心不全になるのを遅らせるために、心不全を引き起こす原因となる高血圧や糖尿病、動脈硬化症の要因となる高コレステロール血症などの脂質異常症をきちんと治療することが大切です。

「禁煙」は必ずしましょう。

心不全発症後の治療目標

心不全を発症した慢性心不全の状態がステージC で、心不全の増悪を繰り返して治療が困難な状態(ステージD)になり、最期を迎えることになります。
急性心不全で初めて入院した後1 年以内に心不全で再入院する人は4 人に1 人とされており、急性増悪(急性心不全)を繰り返すと心不全が重症化するので、ステージC 以降は症状の改善や心不全の増悪を防ぎ、再入院しないようにすることが治療目標となり、終末期になるほど症状の軽減が重視されます。

心不全の薬物治療

心不全の薬物治療は、「予後の改善」と「症状の改善」の2 つの視点で行いますが、心臓のポンプ機能の違いによって、予後を改善するために使用する薬が違ってきます。
心臓のポンプ機能は、左心室から血液を駆出する能力を心臓エコー検査で測定することでわかります。

心臓のポンプ機能の違いにより心不全は、左心室の収縮機能が低下したHFrEF〔ヘフレフ〕、左心室の収縮機能は保たれているが左心室の拡張機能が障害されているHFpEF〔ヘフペフ〕、HFrEF〔ヘフレフ〕とHEpEF〔ヘフペフ〕の中間のHFmrEF〔ヘフエムレフ〕の3つに分類されます。
HFpEF〔ヘフペフ〕は、近年増加してきており心不全患者の約半数を占めます。

HFrEF〔ヘフレフ〕で用いる薬

アンジオテンシン変換酵素阻害薬(ACE 阻害薬)かアンジオテンシンⅡ受容体拮抗薬(ARB)と交感神経の働きを抑えるβ 遮断薬を併用し、場合によってはミネラルコルチコイド受容体拮抗薬(MRA)を追加します。
この治療で効果が不十分なときにはACE 阻害薬(あるいはARB)をアンジオテンシン受容体ネプリライシン阻害薬(ARNI)に切り替えます。
ACE 阻害薬またはARB、MRA、ARNI は、心不全の初期から継続して使用します。
最近では、SGLT2 阻害薬やイバブラジンも使用するようになってきています。

HFpEF〔ヘフペフ〕で用いる薬

HFrEF〔ヘフレフ〕の予後を改善する薬でもHFpEF〔ヘフペプ〕の予後も改善するわけではありません。
今まではHFpEF〔ヘフペプ〕に有効な薬はなかったのですが、最近SGLT2 阻害薬のエンパグリフロジン(ジャディアンス錠)やダパグリフロジン(フォシーガ錠)がHFrEF〔ヘフレフ〕だけでなくHEpEF〔ヘフペフ〕でも有効であることがわかりました。
ARNI のサクビトリルバルサルタンもHFpEF〔ヘフペフ〕で使用できます。

HEmrEF〔ヘフエムレフ〕で用いる薬

残念ながら臨床研究が十分に行われておらず、どの薬を使うと良いのかわかっていません。
そのため、個々の病状に応じて使用する薬を判断することになります。

心不全を悪化させないためには

心不全を悪化させないためには、きちんと薬を服用するとともに日常生活にも気をつける必要があります。
つまり、生活習慣を改善(塩分を摂りすぎない食事、医師のアドバイスによる運動など)し、インフルエンザや肺炎球菌などのワクチン接種をして感染症にかからないようにして、きちんと受診すると良いです。

薬に興味を持つことが大切!

今回は薬のはなしで、わかりにくいことが多かったのではないでしょうか。
あなたが服用している薬に興味を持つこと、その薬を理解して納得して服用することは心不全の治療に限らず、薬物治療では非常に大切なことです。
心不全の薬についてもっと知りたいとき、わからないことがあるときは、何度でも薬剤師に相談すると良いです。当然、医師に相談されても良いです。

【参考資料】
<書籍・文献>

  • 心不全療養指導士認定試験ガイドブック改訂第2版,日本循環器学会,南山堂,2022年
  • 急性・慢性心不全診療ガイドライン(2017年改訂版),日本循環器学会
  • 心不全手帳(第3版),日本心不全学会,2022年
  • 沢井製薬提供冊子:多職種で取り組む心不全の診療,2022年

<ホームページ>

  • NHK 健康Ch,心不全の薬による治療,2021年10月29日更新
  • NHK 健康CH,心不全とは?症状と主な原因(狭心症、高血圧など)入院1年以内に2割が死亡,2021年5月16日更新

年末年始休診のお知らせ

2022/12/23 お知らせ

こんにちは。みわ記念病院から年末年始休診のご案内です。

令和4年12月29日(木)まで通常通り診療
令和4年12月30日(金)~令和5年1月3日(火)の間、休診
令和4年1月4日(水)より通常通り診療

ご迷惑をおかけいたしますが、ご協力をよろしくお願いいたします。

心不全通信 2022年10月号を公開しました。

2022/10/06 お知らせ

心不全通信 No.9 2022年10月号を公開しました。

心不全は「心臓が悪いために、息切れやむくみが起こり、だんだん悪くなって、生命を縮める病気」です。坂道や階段での息切れは、年齢のせいではなく心不全かもしれません。
今回は、「人生会議と心不全の緩和ケア」について説明します。

  • 心不全とは
  • 誰にでも訪れる時のために
  • 人生会議とは
  • あなたの大切な人の心の負担を軽くする
  • 話さなくてもよい
  • 人生会議と緩和ケア
  • 緩和ケアは終末期に始めるものではない
  • “心不全”と“がん”の緩和ケアの違い
  • 心不全の緩和ケアの実際
  • 呼吸困難(息苦しさ)
  • 疼痛(痛み)
  • 倦怠感
  • 抑うつ・不安
  • せん妄
  • 死前喘鳴(のどがゴロゴロ鳴る)
  • 終末期の苦痛

心不全通信 No.9 2022年10月号

心不全とは

心不全は「心臓が悪いために、息切れやむくみが起こり、だんだん悪くなって、生命を縮める病気」です。
坂道や階段での息切れは、年齢のせいではなく心不全かもしれません。

今回は、「人生会議と心不全の緩和ケア」について説明します。

誰にでも訪れる時のために

心不全に限らず医療は絶えず進歩しており、心不全においても新しい治療法や薬物療法も行われるようになっています。
ですが、心不全を完全に治すことはできておらず、だんだんに悪くなって、誰にも訪れる最期の時を迎えます。

・・・そのような時のために『人生会議』はあります。

人生会議とは

「人生会議」とは、アドバンス・ケア・プランニング(Advance Care Planning)の愛称で、あなたの大切にしていることや望み、どのような医療やケアを望んでいるかについて、自ら考え、あなたの信頼する人たちと話し合うことです。
「会議」といっても日時を決めて開く必要はなく、日常生活の中で、自分の大切にしていることや望みを話してみることで良いのです。
以前言ったことと違っても良いのです。人の気持ちや考えは変わるものです。
繰り返し繰り返し、話をすることで、あなたが大切にしていることや望みがあなたの信頼する人たちに必ず伝わります。

あなたの大切な人の心の負担を軽くする

命の危険が迫った状態になると、多くの場合に、これからの医療やケアなどについて自分で決めたり、人に伝えたりすることができなくなります。
あなたがそのような状況になった時、家族などあなたの信頼できる人が「あなたなら、たぶん、こう考えるだろう」とあなたの気持ちを想像しながら、医療やケアについて話合いをすることになります。
あなたの信頼できる人が、あなたの価値観や気持ちをよく知っていることは、その判断の重要な助けとなります。

さらに、人生会議を重ねて、あなたの心の声を伝えておくことは、あなたが自分の気持ちを話せなくなった「もしのとき」に、あなたの大切な人の心の負担を軽くするでしょう。

話さなくてもよい

残された時間のことを考えたくなければ、人生会議はしなくて良いです。
考えてみようかなと思えるようになるまで待てば良いのです。

人生会議はしたいけど、そのきっかけがないのであれば、医療ソーシャルワーカーにご相談ください。
お話を聞かせていただきます。
医療ソーシャルワーカーは人生会議のきっかけづくりのお手伝いをします。

人生会議と緩和ケア

人生会議をする前に、緩和ケアについて知っておいてください。
緩和ケアは、あなたが苦しんでいる症状(呼吸困難や倦怠感、痛みなど)の緩和を優先して治療・ケアを行うことで、病気の治療をやめることではありません。

緩和ケアは終末期に始めるものではない

緩和ケアは終末期になって始めるのではなく、病気になった当初から始めるほうがよく、病気の進行に伴い緩和ケアの優先度合いを増してゆくことで、あなたや家族の生活の質(QOL)の低下を防ぐことができると考えられています。

“心不全”と“がん”の緩和ケアの違い

がんの緩和ケアと心不全の緩和ケアは、その考え方が違います。

  • がんの緩和ケアでは終末期に近づくにつれて効果の期待できない抗がん剤治療などを差し控えて患者さんの生活の質(QOL)の低下を防ぐことを優先します。
  • 心不全の緩和ケアでは心不全の治療が症状の緩和に有効なので、心不全の治療薬を中止すると症状を悪化させることになります。

そのため、心不全の緩和ケアでは多くの場合で心不全の治療を可能な限り継続します。

心不全の緩和ケアの実際

心不全の終末期が近づくにつれて、呼吸困難、倦怠感、疼痛(痛み)、抑うつなどの症状がでてきます。
このような症状に対して、心不全の治療自体が有効なことが多く、心不全の治療をできる限り継続しながら、つぎのような治療・ケアを同時に検討してゆきます。

なお、緩和のための治療・ケアに用いる薬のほとんどが承認された薬の使用方法ではありませんが、一般的に安全に行われている使用方法でもあります。

呼吸困難(息苦しさ)

呼吸困難は心不全の症状の1つで、心不全の治療が呼吸困難に有効ですが、末期心不全では心不全の薬物治療のみでは呼吸困難の症状をコントロールできなくなることがあります。
呼吸困難に対して、酸素投与や患者さんが安楽に感じる身体の姿勢(ポジショニング)、扇風機などでの顔への送風などが有効なこともあります。

薬物治療としてはモルヒネなどのオピオイド系薬剤を使用して、息苦しさを感じにくくします。
このとき使用するモルヒネの量は、がんの痛みの時に使用する量より少ない量です。

疼痛(痛み)

心不全の進行に伴い、様々な痛み(狭心痛、関節痛、ピリピリとした痛みを感じる神経障害性疼痛など)を感じることが多くなります。
その痛みは、心不全そのものによる症状であったり、併存症や精神的なストレスが原因とされていますが、原因がわからない場合も多いです。
いわゆる“痛み止め薬”(非ステロイド性抗炎症薬:ロキソプロフェンなど)は終末期の心不全では腎機能障害の悪化や体液貯留を増悪させることがあるので、できるだけ使用を控えます。

鎮痛薬としてはアセトアミノフェン製剤を使用して、神経障害性疼痛には鎮痛補助薬(プレガバリン、ミロガバリンなど)を併用します。
アセトアミノフェン製剤を使用しても疼痛コントロールが困難な場合には、オピオイド系薬剤(モルヒネなど)を使用します。

倦怠感

心不全による心拍出の低下により倦怠感がでることが多く、薬物療法で対処できないことが多いです。
電解質異常、心不全の治療薬(利尿薬、β遮断薬など)の過量投与、貧血、抑うつ状態、甲状腺機能低下、睡眠時無呼吸、潜在性感染症などが倦怠感の原因であることもあります。
電解質の1 つであるカリウムが不足しておればカリウムの補充、利尿薬の過剰であれば利尿薬の減量中止、β 遮断薬の過量であれば減量中止、輸血、抗うつ薬の投与などを検討します。

がんの倦怠感の時に一般的に使用されるステロイド製剤は、浮腫を増悪させたりせん妄の原因となることがあるので、心不全の倦怠感でのステロイド製剤の使用は薦められません。
軽度の有酸素運動やエネルギー温存療法(倦怠感が強い時間帯と弱い時間帯の症状の程度に合わせて、倦怠感が弱い時間帯に、一日の中で優先度が高いと思う活動をし、倦怠感が強いときには、身の回りのことを身近な人や家族に手伝ってもらうこと。)が有効なこともあります。

抑うつ・不安

心不全に伴う抑うつは生活の質QOL の低下だけでなく、予後不良の原因にもなります。
薬物治療には、抑うつの時に一般的に使用される抗うつ薬を使用します。
不安症状には抗不安薬の使用や抗うつ薬を併用することもあります。
心臓リハビリテーションやカウンセリングなどが有効なこともあります。

せん妄

高齢者の心不全の終末期にはせん妄(意識が混乱することで、つじつまが合わず、いつもと違う行動をとるようになること。多くの場合は自然にウトウトするようになりますが、時に興奮状態になることがあります。)が起こりやすいです。
心不全により脳に供給される血液の量の低下や肺障害、電解質異常、ポリファーマシー(多くの薬剤の服用による有害事象)などが原因となっていることがあります。

せん妄は認知症や抑うつ症状と似ているのですが、せん妄は夜間に増悪する傾向があります。
せん妄は療養している環境や薬剤により起こることもあります。
そのため、せん妄を起こしうる環境を改善したり、せん妄を起こしうる薬剤(抗ヒスタミン薬、降圧薬、β遮断薬、抗不整脈薬、睡眠薬、抗不安薬など)を見直します。
それでもせん妄の興奮状態が改善しない時は、抗精神病薬を使用することもあります。

死前喘鳴(のどがゴロゴロ鳴る)

死を目前に控えた段階では、意識が混濁し、せん妄や死前喘鳴(のどがゴロゴロ鳴る)を認めることが多いです。
死前喘鳴は唾液などがのどに絡むことで起こります。

身体の位置の工夫(上半身を少し上げて顔をしっかりと横に向ける)や点滴をしている場合にはその量を減らしたり止めたりします。
唾液を減らす薬を用いたり、痰を吸引すること(吸痰)もあります。
ただ死前喘鳴は周りの人が感じるほど本人には苦痛でないとされており、本人には吸痰が苦痛になるとの考えもあります。

終末期の苦痛

ほかの方法で緩和できない耐え難い苦痛がある患者さんでは、症状緩和のための鎮静を検討することもあります。
鎮静をおこなったからといって全く会話ができなくなるわけではなく、会話ができる程度に鎮静することもできます。(調節型鎮静)
調節型鎮静で患者さんの苦痛が十分に取り除けない時は、持続的な深い鎮静をおこなうこともあります。
いずれにしても、薬の投与量を変えることで、患者さんが一番満足できる鎮静の程度に調節できます。

次回は、『心不全の薬物療法』について説明します。

【参考資料】
<書籍・文献>

  • 月刊薬事,Vol.64,No.2,2022年
  • 月刊薬事,Vol.62,N0.14,2020年
  • 心不全療養指導士認定試験ガイドブック,日本循環器学会,南山堂,2020年
  • 三浦久幸,在宅における非がん性呼吸器疾患・呼吸器症状の緩和ケア指針,2022年
  • 循環器疾患における緩和ケアについての提言,日本循環器学会,日本心不全学会,2021年
  • 心不全緩和ケアの薬剤業務に関する進め方,日本病院薬剤師会,2021年
  • 非がん性呼吸器疾患緩和ケア指針2021 年,日本呼吸器学会・日本呼吸ケアリハビリテーション学会,2021年
  • 北野大輔:心不全に対する緩和医療,日大医誌,Vol.79,No.4,2020年
  • 安斉俊久:心不全の緩和ケア療法,現代医学,Vol.67,No.1,2020年
  • 大石醒悟:心不全治療と併存する緩和ケア,日内雑誌,No.109,2020年
  • 木澤義之:人生会議(ACP:アドバンス・ケア・プランニング)本人の意向に沿った人生の最終段階の医療・ケアを実践するために,ファルマシア,Vol.56,No.2,2020年
  • <ホームページ>

    • 日本緩和医療学会
    • がん情報サービス(国立研究開発法人国立がん研究センター)
    • 人生会議してみませんか(厚生労働省)
    • 緩和ケア普及のための地域プロジェクトOPTIM

外来休診のお知らせ

2022/08/30 お知らせ

院内職員の感染と濃厚接触者多発のため、8/30(火)~9/3(土)の期間、外来を休診いたします。

患者さんやご家族の皆様には大変ご迷惑をおかけしますが、何卒ご理解いただきますようお願い申し上げます。

心不全通信 2022年6月号を公開しました。

2022/06/09 お知らせ

心不全通信 No.8 2022年6月号を公開しました。

心不全は「心臓が悪いために、息切れやむくみが起こり、だんだん悪くなって、生命を縮める病気」です。坂道や階段での息切れは、年齢のせいではなく心不全かもしれません。
今回は、「心不全の人の食事」について説明します。

  • 心不全とは
  • 心臓に良い食事パターン
  • 食事バランスガイドを活用しましょう
  • 朝食を摂り、遅い時間の夕食は避けましょう
  • 心不全の食事療法の目標
  • 食品の心臓への影響

心不全通信 No.8 2022年6月号

心不全とは

心不全は「心臓が悪いために、息切れやむくみが起こり、だんだん悪くなって、生命を縮める病気」です。坂道や階段での息切れは、年齢のせいではなく心不全かもしれません。

今回は、「心不全の人の食事」について説明します。

心臓に良い食事パターン

日常的な食事は種々の食品の組み合わせなので、個別の栄養素だけでなく、摂取する食品の組み合わせ(食事パターン)にも配慮することが大切です。
心血管イベントの予防に有用な食事パターンには、地中海沿岸諸国の地中海食や米国国立衛生研究所が推奨するDASH食などがあり、日本食パターンも心血管死のリスクを低下させます。
和食はユネスコ無形文化財に登録され、健康食としても世界的に注目されていますので、減塩を加味した日本食パターンの食事もお勧めです。

地中海食 魚,野菜,果物,ワイン,全粒穀物,オリーブ油,ナッツを多く含む食事
DASH食 野菜,果物,低脂肪の乳製品を多く摂り,肉類,菓子類,砂糖を含むソフトドリンクを減らす食事
日本食パターン
The Japan Diet
肉,油脂の摂取が少なく,大豆,魚,野菜,海藻,キノコ,果物などの摂取が多い食事

食事バランスガイドを活用しましょう。

栄養のバランスの良い食事は、心不全などの心疾患や糖尿病、高血圧、脂質異常症、脳血管障害、がんなどの生活習慣病の予防や悪化予防になります。
厚生労働省と農林水産省が発表した「食事バランスガイド」を参考にすると簡単に日本食パターンの栄養のバランスの良い食事を実践できます。
この「食事バランスガイド」は、食品を主食、副食、主菜、牛乳・乳製品、果物の5 つに分け、それぞれを1 日にどれくらい食べたら良いかを示しています。

朝食を摂り、遅い時間の夕食は避けましょう。

朝食を抜く人は肥満、糖尿病の発症、心血管イベントが増し、朝食を抜くことに加え遅い時間に夕食を摂る人はメタボリックシンドロームのリスクが高まります。

心不全の食事療法の目標

過不足のない適切な栄養やエネルギー摂取と健康的な体重の維持により、心不全が増悪しないようにすることが、心不全の食事療法の目標となります。
ただし、心不全は悪くなったり良くなったりを繰り返して次第に心機能や身体機能も低下し、栄養状態も悪化して、終末期に近づいて行きますので、その時期により心不全の食事療法は、その目標・注意点などが異なってきます。

塩分

塩分の過剰摂取は血圧を上昇させ心血管病のリスクを高め、体液貯留の原因となるので、1日6g未満にすることが推奨されています。
特に心不全では塩分の摂りすぎが心不全悪化の原因となることがあるので、塩分の過剰摂取にならないようにすることが重要です。
ただし、高齢者で塩分制限によって食事が味気なくなり食欲がなくなるようであれば、エネルギー確保を優先し、塩分制限にこだわるべきではないとも考えられており、このような時は主治医に確認してください。

水分制限

心不全での水分制限について明確な指標はないので、医師の指示がない限り、過剰な摂取を控えることで良いです。
1日に必要な水分量は、食事中の水分も含めて30~40mL/kg/日ですが、これは年齢によって異なり、75歳以上では少なくとも25mL/kg/日は摂るべきとされています。
高齢者では加齢とともに口渇中枢の働きが低下するので、環境や体調によって水分摂取を勧めるなどの支援も必要です。

カロリー(エネルギー)

カロリーの摂りすぎは、体重の増加につながります。
WHO はBMI が25kg/m2 以上を過体重、30kg/m2 以上を肥満としていますが、日本人ではBMIが25kg/m2を超えたあたりから耐糖能障害、脂質異常症、高血圧などが増えてくるので、25kg/m2以上を肥満としています。
心臓のポンプ機能が保たれた心不全は肥満の人に多いという研究もありますが、BMI が18.5kg/m2 未満のやせた人は脳梗塞、脳出血のリスクが高くなるので痩せすぎにも注意が必要です。
成人以降の体重増加も冠動脈疾患のリスクとなります。
20 歳代にBMI が21.7kg/m2 未満であった人が、その後10kg以上体重が増加すると冠動脈疾患のリスクが2 倍に増えるので、成人早期から普通体重(18.5~24.9kg/m2)を維持するようにするべきです。

タンパク質

中等症以上の腎機能障害がなければ、慢性心不全などでは1.2~1.5g/kg/日のタンパク質を摂取すると良いでしょう。
中等症以上の腎機能障害がある時は、サルコペニア(高齢期にみられる骨格筋量の低下と筋力や身体機能の低下した状態)やフレイル(年をとって体や心のはたらき、社会的なつながりが弱くなった状態)にならないように30kcal/kg/日以上の十分なエネルギーと0.6~0.8g/kg/日のタンパク質を摂取すると良いでしょう。

脂質

ヒトは脂質、炭水化物、タンパク質からエネルギーと摂っており、脂質から得るエネルギーの割合を「脂肪エネルギー比率」といいます。
脂肪エネルギー比率が高くなると心臓病、メタボリックシンドローム、肥満のリスクが高くなります。
脂質はエネルギー源であると同時に細胞膜を作る必須の成分でもあり、脂質をつくる脂肪酸の種類によって身体への影響は大きく異なります。

飽和脂肪酸

飽和脂肪酸は、肉などの動物性脂肪や乳製品、パーム油などの植物油脂に多く含まれています。
動脈硬化への影響は少ないとの研究もあるのですが、LDL コレステロールを増加させ心筋梗塞を起こしやすくするので、過剰な摂取は控えるべきでしょう。
しかし、極端に減らすと脳出血が起こりやすくなるので、極端に摂取を減らすべきではありません。

不飽和脂肪酸(一価不飽和脂肪酸)

オレイン酸が代表的なもので、動物性脂肪やオリーブ油などに多く含まれています。
飽和脂肪酸よりLDL コレステロールを上昇させにくいので、心血管予防効果が“ある”という研究と“ない”という研究があります。
オリーブ油から一価不飽和脂肪酸を摂った場合には心血管死が減少したが、動物や植物から摂った場合には効果がなかったという研究もありますので、どのような食品から一価不飽和脂肪酸を摂取するかも重要なようです。

不飽和脂肪酸(多価不飽和脂肪酸 – ω3系不飽和脂肪酸)

ω3 系不飽和脂肪酸には、食用油由来のα-リノレン酸と魚介類由来のEPA、DHA があります。
EPA は二次予防効果(冠動脈疾患にかかったことがある人が再び冠動脈疾患に罹らないようにする効果)があるとされていますが、これらの報告は古い研究が多く、近年実施された研究では有効性が示されておらず,効果は限定的かもしれません。
また冠動脈疾患にかかったことがない人でも冠動脈イベント発生を抑制できるどうかについてはよくわかっていません。

不飽和脂肪酸(多価不飽和脂肪酸 – ω6系不飽和脂肪酸)

リノール酸が代表的なもので、大豆油やコーン油などの植物油に多く含まれています。
リノール酸は心血管疾患発症の予防に有用なのですが、ω6 系不飽和脂肪酸は体内で炎症を引き起こす物質(プロスタグランジン、ロイコトリエンなど)に変化して、冠動脈疾患を増やす可能性もありますので、過剰な摂取はさけるべきでしょう。

不飽和脂肪酸(多価不飽和脂肪酸 – トランス脂肪酸)

トランス脂肪酸を多量に摂取すると、HDL コレステロールが減少し、LDL コレステロールが増加して冠動脈疾患のリスクが高まるので、WHO はトランス脂肪酸の摂取量を総エネルギー摂取量の1%未満とするよう勧告しています。
この勧告に従うと、日本人では1 日あたり約2g未満となりますが、日本人が摂取しているトランス脂肪酸の量は0.9g 程度であり、健康への影響は少ないと考えられています。
近年、脂質を摂りすぎている人が増えてきています。
脂質エネルギー比率が高くなるとトランス脂肪酸の摂取も増える可能性がありますので、脂質の摂りすぎにならにようにしましょう。

食品の心臓への影響

魚は積極的に摂取するべきで、ω3 系不飽和脂肪酸のエイコサペンタエン酸(EPA)やドコサヘキサエン酸(DHA)を多く含む青魚などは、冠動脈疾患の予防に有用です。
週に8 回魚を摂取する人は、週に1 回だけの人と比べ、冠動脈疾患のリスクが37%少ないことやω3 系不飽和脂肪酸の摂取量が多いほど心血管死亡率が少なくなるとの研究があります。

赤身肉

肉の過剰摂取は心血管疾患のリスクになると言われていましたが、日本人の肉の摂取量程度(100 g/日未満)では心血管死は増加しないと考えられるようになっています。
ただし、動物性脂肪(飽和脂肪酸)の過剰摂取はコレステロールを上昇させる要因となるので、脂肪が少ない赤身肉を選ぶほうが良いです。
また、過度に肉食を控え飽和脂肪酸の摂取量が少なくなりすぎると脳血管障害のリスクが増えるので、適度な摂取が良いです。

加工肉

ハムやソーセージなどの加工肉を1日75g以上(ソーセージ1本15g として5本以上、スライスハム1枚10gとして7枚以上)摂取する人は、1日25g未満の人と比べて、心不全発症リスクが1.28倍、心不全死亡リスクが2.43倍増えるとの研究がありますので、過剰摂取には気をつけましょう。

野菜、果物

野菜、果物はビタミン、ミネラル、繊維質を豊富に含み、心血管死の減少に有用との報告があり、野菜、果物が一品食卓に増えることで心血管死のリスク低下につながります。

全粒穀物

全粒穀物(糠となる部位を除去していない穀物やその製品)は、食物繊維、ビタミン、ミネラルなどを多く含み、冠動脈疾患の予防や心血管死のリスク減少効果があります。

ナッツ

ナッツは不飽和脂肪酸、繊維質、ビタミン、ミネラルを豊富に含み、冠動脈疾患の発症リスクを減少させるとの研究があります。

アルコール

アルコールは心毒性を有することから、過剰な摂取はアルコール性心筋症のリスクとなりますが、軽度のアルコール摂取は心不全発症のリスクを低下させます。
心血管予防のために飲酒習慣のない人が飲酒する必要はありませんが、飲酒習慣がある人では、純アルコールで1日30g未満の摂取にとどめると良いでしょう。

清涼飲料水(加糖飲料)

清涼飲料水や加糖飲料の多量摂取は、過剰エネルギーにつながり、肥満、糖尿病のリスクを高めます。
カロリーゼロを謳った人工甘味料を使用した清涼飲料水も糖尿病の発症に関与する可能性があるので、注意が必要です。

次回は、「人生会議と心不全の緩和ケア」について説明します。

【参考資料】

  • 心不全療養指導士認定試験ガイドブック,日本循環器学会,南江堂、2020年
  • 心不全患者における栄養評価・管理に関するステートメント,日本心不全学会ガイドライン委員会,2018年
  • 農林水産省ホームページ,トランス脂肪酸について
  • 厚生労働省ホームページ,「食事バランスガイド」について
  • 日本サルコペニア・フレイル学会ホームページ
  • 食べて元気にフレイル予防,厚生労働省 令和元年度食事摂取基準を活用した高齢者のフレイル予防事業

心不全通信 No.7 2022年2月号を公開しました。

2022/02/07 お知らせ


心不全通信 No7 2022年2月号を公開しました。

心不全は「心臓が悪いために、息切れやむくみが起こり、だんだん悪くなって、生命を縮める病気」です。坂道や階段での息切れは、年齢のせいではなく心不全かもしれません。
今回は、心不全の原因となる不整脈に対する非薬物療法について説明します。

  • 心不全とは
  • 心不全は予防できることもある
  • 心不全でも運動は大切
  • 運動耐容能に基づいた運動処方
  • 運動耐容能の評価
  • 心不全の運動療法
  • 心不全の運動療法を安全に行うために
  • 記録は大切

心不全通信 No.7 2022年2月号


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