心不全通信 No.11「心臓の構造・働きと心不全」

2023/06/02


心不全通信 No.11 2023年6月号を公開しました。

今回は「心臓の構造・働きと心不全」について説明します。

  • 心臓の構造
  • 電気信号(刺激伝導系)
  • 冠動脈
  • 心臓の役割
  • 心不全の定義
  • 心不全の分類
  • 心不全による症状や徴候
  • ポンプ機能低下(血流低下)による症状
  • うっ血による症状
  • 心不全の病の軌跡
  • 心不全の4つのステージ

心不全通信 No.11 2023年6月号

心臓の構造

心臓は4つの部屋(左右の心房・心室)に分かれています。
心室と心房の間、心室から血管への出口には“弁”があり、血液が逆流することなく一方通行で流れるようになっています。

聴診器で弁が閉じるときに聞こえる音が“心音”です。

電気信号(刺激伝導系)

心臓を収縮する合図は、右心房の上大静脈の開口部近くにある洞結節から始まります。
洞結節で発生した電気信号は、左右の心房の中を伝播して房室結節に伝わり、その後、ヒス束→左脚右脚に分枝して、心室にあるプルキンエ線維から心室に伝わります。

この電気信号がタイミングよく、スムーズに心臓内を伝わることで、心臓が収縮して心臓から血液が拍出されます。
この電気信号の発生や伝導に異常が生じると不整脈が起こります。

冠動脈

冠動脈は、心臓が活動するために必要な酸素や栄養を心筋に供給しており、左心室から出ている大動脈が左右2本に、さらに心臓の表面で枝分れし、最後は心臓全体を血液が循環できるようになっています。
冠動脈が詰まると心筋梗塞になりますが、心臓への影響は冠動脈が詰まった部位により異なります。

心臓の役割

心臓の主な役割は、ポンプ機能(身体の必要に応じて血液を安定して身体に供給すること)で、「収縮機能」と「拡張機能」という2つの機能でポンプ機能をはたしています。

収縮機能は、心臓を収縮させて血液を全身へ送り出す機能で、拡張機能は全身から戻ってきた血液を心臓に取り込む機能です。
心臓には、運動とか心筋梗塞などの身体に生じる様々な変化に対応できるように、ポンプ機能を調節する機構(代償機構)が備わっているのですが、この代償機構が破綻して身体が必要とする量の血液を供給できなくなると心不全になります。

心不全の定義

心不全は、「なんらかの心臓機能障害、すなわち、心臓に器質的および/あるいは機能的異常が生じて心ポンプ機能の代償機転が破綻した結果、呼吸困難・倦怠感や浮腫が出現し、それに伴い運動耐用能が低下する臨床症候群」と医学的には定義されています。
簡単に、『心不全は、心臓が悪いために、息切れやむくみがおこり、だんだん悪くなり、生命を縮める病気』と理解すると良いでしょう。

心不全の分類

心不全は、発症や進行経過、左室の収縮機能、原因となる心臓の部位などにより分類されます。

急性心不全と慢性心不全

心不全は、病状の発症・進行の経過によって、急性心不全と慢性心不全に大別されます。
急性心不全は、心筋梗塞や突然に起こった不整脈などによって急激に心臓のポンプ機能が弱まり、時間や日にち単位で発症・進行する心不全です。
慢性心不全は、高血圧などにより月や年単位で進行・悪化する心不全です。

「ヘフレフ」と「ヘフペプ」

心不全は、収縮不全(左心室の収縮機能が低下すること)によって起こるものと、収縮機能は保たれているにもかかわらず、拡張不全(左心室の拡張機能が低下すること)によって心臓へ血液が戻りにくくなり、体内に血液が滞留することで起こるものがあります。
収縮不全により心臓のポンプ機能が低下している心不全をヘフレフ(HFrEF)といい、心臓の収縮機能は保たれているけれど拡張不全のために起こる心不全をヘフペフ(HFpEF)といいます。

心不全の約半数がヘフペフで、高齢の女性に多く、高血圧や糖尿病などを併存していることが多いです。

ヘフレフとヘフペプでは、有効な薬物療法に違いがあります。
ヘフレフとヘフペフの中間の心不全は、ヘフエムレフ(HFmrEF)です。

ヘフレフ(HFrEF) Heart Failure with reduced Ejection Fraction
ヘフエムレフ(HFmrEF) Heart Failure with midrange Ejection Fraction
ヘフペフ(HFpEF) Heart Failure with preserved Ejection Function

左心不全と右心不全

左心房・心室が原因で起こる心不全が「左心不全」で、右心房・心室が原因で起こる心不全が「右心不全」です。
両方が悪くなる両心不全もしばしばあります。

心不全による症状や徴候

心不全による症状や徴候には、ポンプ機能低下(心臓が血液を全身に十分に送り出せない)によるものとうっ血(心臓が全身に血液を送り出せないために体内に血液が滞留する)によるものがあります。

ポンプ機能低下(血流低下)による症状

だるい(倦怠感)、疲れやすい

心不全で臓器に供給される血流が減ると、運動するために必要な量の血液が筋肉に供給されなくなり、筋肉は酸欠状態となって、だるさや疲れを感じるようになります。

乏尿・夜間多尿

心不全の初期より、日中は活動のため必要な骨格筋に優先的に血液が配分され、腎臓への血流は減少して尿の量も減りますが、夜間に活動量が減ると腎臓への血流も増えてくるので、夜間の尿量が増えます。

精神神経症状

心不全で脳の血流の低下や肺うっ血による酸素不足により、意識障害や抑うつ・不安、せん妄などが起こることがあります。

手足が冷たい

心不全で末梢組織への血流が低下すると、四肢(手や足)は湿った感じがする冷たさがあり、血色が悪く、蒼白で、口唇や爪床にチアノーゼが起こることがあります。
脈圧の低下(脈圧収縮期血圧比が25%以下)では末梢組織での血流低下が強く疑われます。

うっ血による症状

体重の増加

心不全で心臓に戻るべき血液が心臓に戻ることができないと、臓器に「うっ血」が起こり、足がむくむ、胸水が溜まる、肺水腫などが生じます。
心不全で全身を循環する血液の量が減ると腎臓の血流も少なくなって、腎臓で作られる尿量が少なくなるので、腎臓から尿として体外に排出される水分も体の中にたまることになり、体重が増えます。

このように心不全で「体重が増える」ことは肥満ではなく、「体に水分がたまること」つまり「心不全の悪化」を意味します。
そのため、毎日の体重測定は、心不全の状態をしるために非常に大切です。

左心不全によるうっ血の症状

左心不全で心臓から送り出される血液が滞留すると、肺にうっ血が起こります。
安静にしている時には、なにも症状がないのですが、今まで大丈夫だった距離の歩行や階段のぼりでも息切れを感じるようになります。
重症化すると安静にしていても息切れを感じるようになり、発作性夜間呼吸困難や起座呼吸を認めるようになります。

これは心不全が原因で肺水腫(肺の毛細血管から血液の液体成分が肺胞内に滲み出た状態)となり、酸素と二酸化炭素の入れ替えがうまくできなくなったために起こります。
また、より多くの酸素を取り込むために、呼吸回数が多くなり、呼吸が浅く速くなります。

右心不全によるうっ血の症状

右心不全では、全身から心臓に血液が戻りにくくなります。そのため体重が増加し、足などに浮腫が起こります。
浮腫は重力の影響を受けるので、座位や臥位の状態が多い人では、足ではなく、最初に臀部や背部に浮腫があらわれ、その後上肢や顔面に浮腫があらわれることもあります。
また、腹部臓器にうっ血が起こると、胸水や腹水が溜まったり、腸管の動きが悪くなって食欲不振、便秘、悪心・嘔吐や腹部膨満感などが起こります。

【起座呼吸】

起座位(上体をほぼ90 度に起こした姿勢)で呼吸困難が改善し臥位になるとすぐに息切れするようになること。
起きているときは重力で下肢などに溜まっていた血管から漏れ出た体液が、臥位になると重力の影響が少なくなって血管の中に戻ってきます。
すると血管の中を流れる血液の量が増えることになり、心臓への負担が増して肺水腫になり息切れするようになります。

【発作性夜間呼吸困難】

寝る前に症状はないのですが、寝てから2~4時間後に息苦しさにより眠れなくなること。
夜間に咳や痰が出ることがあります。起座位をとると症状が改善することもあります。

心不全によるポンプ機能低下とうっ血に伴う症状
ポンプ機能低下 左心不全のうっ血 右心不全のうっ血
・易疲労感
・倦怠感
・乏尿・夜間多尿
・記銘力・集中力低下
・意識障害
・手足が冷たい
・動いた時の息切れ
・発作性夜間呼吸困難
・起座呼吸
・足のむくみ(浮腫)
・食欲不振
・便秘
・悪心・嘔吐
・腹部膨満感
・体重増加

心不全の病の軌跡

残念ながら、心不全は完全に治ることはなく、症状が良くなったり悪くなったりを繰り返しながら一方通行で進行していきます。
そのため、心不全と上手に付き合い、できるだけ心不全が進行しないようにすることが肝要です。

心不全の4つのステージ

心不全の療養は、4つのステージに分けて考えるとよいです。

ステージAとBは、まだ心不全の症状がでていない状態であり、心不全に進展させる要因(高血圧や糖尿病、心筋梗塞など)の治療を行うことで心不全にならないようにすることが治療目標となります。

ステージCは、心不全の症状が出現している状態であり、心不全の症状が急激に悪化するような事態(慢性心不全の急性増悪)をできるだけ回避することが治療目標となります。

ステージDは、いろいろな心不全の治療を行っても心不全の徴候が改善しない状態であり、心不全の治療を行いつつも緩和ケアや終末期ケアのウエイトが大きくなります。

次回は、『心不全ステージA』について説明します。

【参考資料】
<書籍・文献>

  • 日本心臓財団,心不全に負けずに健康長寿を目指そう,2020年11月
  • 日本循環器学会,心不全療養指導士認定試験ガイドブック改訂第2版,南江堂,2022年

<ホームページ>

  • 日本心臓財団
  • 日本循環器協会
  • 心不全のいろは
  • トーアエイヨー
  • バイエル薬品
  • 小野薬品工業
  • 日本ベーリンガーインゲルハイム
  • MEDLEY
  • Medical Note

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