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心不全通信 No.13「ステージB」

2024/01/29


心不全通信 No.13 2024年2月号を公開しました。

今回は「ステージB」について説明します。

  • ステ-ジBとは
  • 器質的な心疾患に対する治療
  • 心不全を早期に発見するための検査
  • 心臓リハビリテーション

心不全通信 No.13 2024年2月号

ステージBとは

ステージBは、心臓に器質的な疾患があるけれども、まだ心不全の症状はない状態で、心不全の前段階と言えます。

そのため、ステージBでは、器質的な心疾患の悪化を予防し心不全にならないようにすることが治療目標となり、ステージAの療養(心不全のリスクとなる高血圧、脂質異常、糖尿病などの予防や治療)を継続しながら、「器質的な心疾患に対する治療」、「心不全を早期に発見するための検査」、「心臓リハビリテーション」などを行います。

器質的な心疾患に対する治療

心不全の原因となる主な器質的な心疾患には、「虚血性心疾患」、「弁膜症」、「不整脈」、「心筋症」などがあります。

虚血性心疾患

狭心症

狭心症とは、冠動脈に狭窄があり、心筋が必要とする量の酸素が供給されない(心筋虚血)ために、前胸部などに狭心痛が生じる病気です。
狭心痛は、前胸部を中心に、圧迫感、絞扼感、灼熱感などの不快感のことで、頸部、顎関節や左肩などに痛みを感じることもあります。
狭心症には、安定狭心症、不安定狭心症、冠攣縮性狭心症などがあります。

安定狭心症

安定狭心症は、狭心症が出現する労作の程度がほぼ同じで、安静にすると数分で症状が消失します。
粥状(アテローム)動脈硬化によって冠動脈にプラークと呼ばれるコブのようなものができて、内腔が狭くなることが原因です。
労作時には血圧と心拍数が上昇して心筋が必要とする酸素の量も増えますが、冠動脈に狭窄があると労作時に必要な血液・酸素を心筋に供給することができず、心筋は血液・酸素不足(心筋虚血)となり、狭心痛がでます。
狭心痛が出た時には、症状が治まっても、急性冠症候群に進展することもあるので、必ず受診しましょう。
安定狭心症では、原因となる動脈硬化の進展を予防するためにLDL-コレステロールを下げる薬(スタチン製剤)や細くなった冠動脈に血栓ができないようにする抗血小板薬を使用します。

不安定狭心症

不安定狭心症は、プラークが破れ始めていたり、それに続いて血栓ができることで冠動脈が非常に狭くなったりしている状態で、心筋虚血により急性心不全を起こすことがあります。
血栓が冠動脈を閉塞して心筋梗塞を起こし、突然死を起こすリスクも高いです。
既に安定狭心症の治療をしていても、生活習慣の改善が不十分であったり、自己判断で薬を中断したりすると、不安定狭心症になってしまうことがあります。特に、高血圧、糖尿病、高脂血症、肥満がある人では注意が必要です。
安定狭心症から不安定狭心症になると、狭心痛が労作時だけでなく、食後や入浴時など安静にしている時にもあらわれることがあります。
症状が治まるまでの時間が長くなった場合には早めに受診しましょう。
狭心痛が20分以上続くときは、心筋梗塞を起こしている可能性もあるので、迷わず救急車を呼びましょう。
不安定狭心症による心筋梗塞のリスクが非常に高い場合には、カテーテル治療(狭くなった冠動脈を拡げる)やバイパス手術(血液が流れにくくなっている冠動脈をう回する血管を作る)をします。
手術をしても心筋梗塞の発症のリスクを減らすために、スタチン製剤や抗血小板薬などを服用します。

冠攣縮性狭心症

冠攣縮とは、心臓の表面にある比較的太い冠動脈が一過性に異常に収縮した状態です。
冠攣縮により、心筋での酸素の供給と需要のバランスが崩れ、心筋虚血となり、急激に心ポンプ機能が悪化して急性心不全になることがあります。
冠攣縮狭心症の予防は、生活習慣を改善(禁煙、血圧管理、適正体重の維持、耐糖能障害・脂質異常の是正、過労・精神的ストレスの回避、節酒など)することであり、なかでも喫煙は非常に重要です。
カルシウム拮抗薬や硝酸薬などの薬を冠攣縮の予防ために使用します。

急性冠症候群

急性冠症候群は、急性心筋梗塞、不安定狭心症、心臓突然死を含めた一連の症候群のことです。
急性心筋梗塞を起こすと急激に心ポンプ機能の失調をきたして心不全を合併します。
前胸部を中心とした圧迫感、絞扼感、灼熱感があり、冷汗を伴う、10~30分以上持続する、より軽度の労作や安静時にも生じるようになったなどの場合や新たにこれらの症状が出現するようになった場合には急性冠症候群が疑われます。
このような場合には、できるだけ早期に冠動脈の血流を再開させて心筋梗塞で壊死する心筋の量をできるだけ少なくするために、心臓突然死を回避するために、迷わず救急車を呼びましょう。

弁膜症

弁の機能異常により心臓からの血液の駆出が障害される病気で、弁狭窄と弁閉鎖不全があります。
弁狭窄では、弁のところが狭くなっており、血液を駆出するために心筋は通常より強い力で収縮しなければならず、心筋に圧負荷がかかります。
弁閉鎖不全では、駆出した血液が逆流してくるので1回に駆出しなければいけない血液の量が増えて、心筋に容量負荷がかかります。
慢性的な圧負荷や容量負荷により、心筋が障害されて心臓の代償機転が破綻すると心不全になります。

僧帽弁狭窄症

僧帽弁の狭窄により、拡張期の左房から左室への血液の流入が障害され、心拍出量の低下や左房圧上昇に伴う肺うっ血を引き起こします。
さらに進行すると肺高血圧から右心不全になります。
左房が拡大して心房細動を合併することが多く、左房内にできた血栓による塞栓症を起こすことがあります。
僧帽弁の癒合・石灰化が原因ですが、リウマチ熱によるものは減少傾向で、高齢者や腎不全による僧帽弁輪石灰化が増えてきています。
外科的手術に加え、僧帽弁の形態によってはバルーンを用いたカテーテル治療が有効な場合があります。

僧帽弁閉鎖不全症

僧帽弁の閉鎖が不完全なために、収縮期に左室から左房へ血液が逆流する病気です。
僧帽弁閉鎖不全症は、器質性と機能性に分類されます。

器質性僧帽弁閉鎖不全症の原因 機能性僧帽弁閉鎖不全症の原因
僧帽弁の左心房側への逸脱、弁穿孔、腱索断裂など 弁に器質的異常はないが、左室の拡大で僧帽弁の腱索が引っ張られて生じる

僧帽弁の閉鎖不全が徐々に進行した場合、左室・左房は容量負荷に対する代償機構として拡大するので、長期にわたって無症状のことが多いです。
代償機構が破綻すると左房圧が上昇し、心房細動になったり肺動脈圧が上昇したりして心不全になります。

手術治療が第一選択ですが、高齢などで手術ができない場合で僧帽弁閉鎖不全を改善すると症状の軽快が期待できる場合は、カテーテルを用いて僧帽弁尖をクリップで摘まむ経皮的僧帽弁接合不全修復システムMitraClipを使用することもあります。

大動脈弁狭窄症

大動脈弁口の狭小化により左室から体循環への血液の駆出が障害をきたす病気です。
収縮期に左室と大動脈の間に圧較差を生じ、心拍出量を保つために左室収縮圧が上昇します。
初期には左室が肥大することによる代償機転が働き無症状ですが、最終的には心拍出量が低下して心不全になります。
以前はリウマチ性、先天性弁異常などが主な原因でしたが、現在では高齢化による加齢変性が主な原因です。
一般的には、大動脈弁置換手術が行われますが、経カテーテル大動脈弁置換術TAVIが行わることも多くなってきています。

大動脈弁閉鎖不全症

大動脈弁の閉鎖が不完全なために拡張期に大動脈から左室に血液が逆流し、前方への駆出の低下と逆流により左室に容量負荷がかかる病気です。
発症の形式により急性と慢性に分類されます。
慢性の大動脈弁閉鎖不全では、左室は容量負荷に対して、左室拡大により長期に代償することができるので、その間は無症状です。
代償しきれなくなって左室機能が低下すると心不全になります。
急性の大動脈弁閉鎖不全では、代償機転としての左室拡大が働かないため、左室拡張期圧の急激な上昇を生じ、前方駆出の低下、急性肺水腫や心原性ショックを引き起こします。
標準治療は外科手術で、大動脈弁置換手術です。

不整脈

心臓は、拍動(収縮と弛緩を定期的に繰り返すこと)により血液を全身に送り出しています。
この拍動は、右心房にある洞結節で作られた電気信号が刺激伝導系を通り、秩序良く、タイミング良く心臓の中を伝わって、心筋が収縮・弛緩すること(心臓のポンプ機能)によって作られます。
不整脈は、この電気信号やその伝わり方の異常によって起こり、頻脈、徐脈、期外収縮があります。
健康な人でも、睡眠不足やアルコールの過剰摂取、過労などによって不整脈が起こることがあります。
ほとんどの不整脈は問題のないものですが、突然死を引き起こすものもあるので注意が必要です。

頻脈 脈が速くなる
徐脈 脈が遅くなる
期外収縮 予想されたよりも早く脈が出る

不整脈の自覚症状でもっとも多いのは「動悸」と「めまい」です。
動悸は、「胸がドキドキする」、「早鐘のような感じ」、「心臓が一瞬止まってから飛び跳ねるような感じ」、「心臓が大きく波打つ」など人によって感じ方は様々です。
不整脈により血圧が低下して脳への血流量が低下すると、「めまいがする」、「一瞬目の前が暗くなる」、「気が遠くなる」、「ふらつく感じがする」などの症状や一過性の意識消失(失神)を起こすこともあります。

心房細動

心房細動は、心房が小刻みに震えるように収縮する病気で、多くの場合、脈の乱れを伴う動悸を自覚します。
肺静脈内で起きた期外収縮が強く関与しており、洞結節からの電気信号が房室内で消失し、複数の興奮波が心房内を旋回することで起こり、頻拍や不規則な心室収縮を引き起こし心機能が低下します。
心房細動により血行動態に障害が出ている場合は、速やかに電気的除細動を行います。
治療としては、抗凝固療法に加えて、レートコントロールやリズムコントロール、カテーテルアブレーションなどを行います。

1)抗凝固療法

心房細動により心房収縮が消失すると、左心耳血栓が形成されやすくなり、できた血栓が血流により運ばれて、脳梗塞のリスクが高くなるので、心房細動においては抗凝固療法が重要です。

2)レートコントロール(心拍数調節療法)

慢性心不全で心房細動を併発しているけれど自覚症状が軽度で血行動態も安定している場合には、経口β遮断薬を使用して、心拍数が適正になるようにします。

3)リズムコントロール(洞調律維持療法)

薬剤によるレートコントロールが困難な場合や洞調律維持が血行動態や心不全管理から有益であると判断される場合には抗不整脈薬によって、リズムコントロール(心房内の異常な電気信号の伝導を正常にする)を行います。

4)カテーテルアブレーション

カテーテルアブレーションは、心房細動の原因に対する治療で、カテーテルを足のつけ根の血管から挿入し、心臓内の組織を焼くことで、不整脈を引き起こす異常な電気信号の広がりを防ぐ治療です。

心房細動による症状がある人では薬物療法よりカテーテルアブレーションが行われていますが、最近では症状がなくてもカテーテルアブレーションが行われるようになっています。

徐脈性不整脈

徐脈は、主に「洞結節」や「房室結節」の異常で起こります。
洞結節の異常で生じるのが洞不全症候群で、房室結節の異常で生じるのが房室ブロックです。

洞不全症候群

右心房にある洞結節に異常が生じ、心臓を動かす電気信号の発生回数が極端に少なくなったり、発生できなくなったりすると徐脈になります。
徐脈になると、脳虚血症状(めまい、意識消失[失神]、痙攣)や心不全症状を起こすことがあります。

房室ブロック

房室ブロックとは、心房から心室への興奮伝導が房室結節やヒス束で遅延・途絶することで、それにより心室の収縮回数が減って脈拍数が少なくなります。
房室ブロックは、心筋虚血、高カリウム血症、薬剤(β遮断薬、カルシウム拮抗薬、ジギタリス製剤、抗不整脈薬)、内分泌疾患(甲状腺機能低下症)などで起こります。
必要に応じて房室ブロックの原因への治療や徐脈を助長する薬剤を減量します。

ペースメーカー

徐脈であっても直ちに命に関わることは少ないので、自覚症状がなければ様子をみますが、脳虚血症状(めまい、意識消失[失神]、痙攣)や日常生活に支障が出る程度の強い息切れやだるさなどの症状がある場合にはペースメーカーの植込みを検討します。

心不全を早期に発見するための検査

心臓に器質的疾患がある場合は、心不全を発症することがあります。
そのため、毎日の自覚症状のチェックと定期的な受診での心不全バイオマーカー検査や心臓超音波検査によって、心不全を早期に発見し、原因疾患の治療や進展ステージに応じた心不全の治療を行う必要があります。

心不全バイオマーカー
BNP B型ナトリウム利尿ペプチド
NT-proBNP N末端プロBNP

心臓リハビリテーション

心疾患やその危険因子の療養では、薬物治療のみでなく、食生活や禁煙、節酒、減量など生活習慣の是正や心理的ストレスへのマネジメント、運動療法などの多面的な対応が必要です。
心臓リハビリテーションとは、このような心疾患やその危険因子に対する長期にわたる包括的な療養支援のことで、運動療法のみでなく、服薬指導、食事指導、禁煙指導、疾病教育などを体系的に実施します。
心臓リハビリテーションについて、もっと知りたい方は、心不全外来の担当医に、ご相談ください。

次回は、『ステージC』について説明します。

【参考資料】

  • 心不全療養指導士認定試験ガイドブック(改訂第2版),日本循環器学会,南江堂,2022年
  • 心不全に負けず健康寿命を目指そう(リーフレット),日本心臓財団,2020年

【参考ホームページ】

  • 健康チャンネル〔NHK〕
  • カテーテルアブレーション治療とは〔Boston Scientific社〕
  • 心房細動週間ウェブサイト
  • 社会福祉法人恩賜財団済生会
  • メディカルスタッフのための心不全入門講座〔トーアエイヨー〕
  • メディカルスタッフのための不整脈入門講座〔トーアエイヨー〕
  • 慶応義塾大学病院医療健康情報サイト
  • 経皮的僧帽弁接合不全修復システム MITRACLIP NT システム〔Abott社〕
  • 大阪急性期・総合医療センター心臓血管センター
  • 飯塚病院循環器病センター
  • 近畿大学医学部循環器
  • 日本医師会

面会禁止のお知らせ

2024/01/26

新型コロナウイルス感染症の後遺症でお悩みの方へ

2023/12/18

新型コロナウイルス感染症の後遺症でお悩みの方へ。
当院では、新型コロナウイルス感染症罹患後の症状について悩まれている方の診療をしております。

診療日 月曜日 15:00~17:00 【予約制】0865-42-5000
担当医師 山本 紘一郎(岡山大学病院 総合内科・総合診療科)
対象 新型コロナウイルス感染症の発症もしくは診断日から28日間(4週間)以上経過
※高校生以上

※通院中の持病をお持ちの方は、かかりつけ医の先生からの紹介状をお持ちください。

参照(岡山県ホームページ)
https://www.pref.okayama.jp/page/767801.html

心不全通信 No.12「ステージA」

2023/10/19


心不全通信 No.12 2023年10月号を公開しました。

今回は「ステージA」について説明します。

  • ステ-ジAとは
  • 高血圧
  • 脂質異常
  • 糖尿病
  • 禁煙
  • 節酒
  • 身体活動・運動

心不全通信 No.12 2023年10月号

ステ-ジAとは

ステージAは、心不全のリスクはあるけれども、心不全はまだ発症していない状態です。
そのため、心不全のリスクとなる疾患の予防・治療が治療目標となります。
心不全のリスクには、高血圧、脂質異常、糖尿病・耐糖能異常、運動不足、喫煙、肥満などがあります。

高血圧

正常血圧と高血圧

血圧は、正常血圧、正常高値血圧、高値血圧、高血圧(Ⅰ度、Ⅱ度、Ⅲ度)、収縮期高血圧に分類されます。
診察室での収縮期血圧(最大血圧)が120mmHg未満で、さらに拡張期血圧が80mmHg未満であると正常血圧、収縮期血圧が140mmHg以上か拡張期血圧が90mmHg以上であると高血圧となります。
自宅で測る家庭血圧では、診察室よりも5mmHg低い、収縮期血圧115mmHg未満かつ拡張期血圧75mmHg未満が正常血圧です。

高血圧の予防

高血圧の予防に欠かせないのは、食塩摂取量の制限です。
食塩摂取の目標量は、「健康日本21(第二次)」では8g未満、「日本人の食事摂取基準(2020年版)」では、成人男性で7.5g未満、成人女性で6.5g未満とされています。
また、日本高血圧学会は、高血圧の減塩目標を1日6g未満にするべきとしています。
減塩のコツを知りたい方は、管理栄養士にご相談ください。

食塩相当量の換算方法

商品に記載される栄養成分表示は、ナトリウム(mg)で表示されていることがあります。
以下の式を用いて、食塩相当量を算出することができます。

食塩相当量(g) = ナトリウム量(mg) × 2.54 / 1,000

高血圧の治療をしましょう!

高血圧の人は4,300万人くらいいるとされており、そのうち40%くらいは高血圧の治療をしていません。
高血圧は自覚症状がほとんどないのですが、生活習慣病に関連した死亡に、喫煙とともに最も影響します。
もし完全に高血圧を予防できると、年間10万人以上の人が死亡せずに済むとの推計もあります。
高血圧は、必ず治療をしましょう。

脂質異常

脂質異常とは、血液中の脂質の値が基準値から外れた状態のことで、LDL コレステロール(いわゆる悪玉コレステロール)、HDL コレステロール(いわゆる善玉コレステロール)、トリグリセライド(中性脂肪)の異常などがあり、いずれも動脈硬化と関連しています。

脂質異常の診断基準

脂質異常の診断基準は表のとおりですが、この基準に当てはまると、すぐに薬物治療が必要というわけではありません。
まず、食事療法・生活習慣の改善を試みて、それでも不十分な場合に薬物治療を始めます。

LDLコレステロール
140mg/dL以上 高LDLコレステロール血症
120~139mg/dL 境界域高LDLコレステロール血症

HDLコレステロール
40mg/dL未満 低HDLコレステロール血症

トリグリセライド
150mg/dL以上(空腹時採血) 高トリグリセライド血症
175mg/dL以上(随時採血)

Non-HDLコレステロール
170mg/dL以上 高non-HDLコレステロール血症
150~169mg/dL 境界域高non-HDLコレステロール血症

LDLコレステロール高値の要因と改善方法

食事で飽和脂肪酸を摂りすぎるとLDLコレステロールが高値になることがあります。
飽和脂肪酸は、肉の脂身(赤身ではなく白い部分。 バラ肉、ひき肉、鶏肉の皮も含む)・バターやラード・生クリームなどに多く含まれ、パームヤシやカカオの油脂、インスタントラーメンなど加工食品にも含まれています。
冷蔵庫の中で固まっている油脂は、飽和脂肪酸の多い油脂であることが多いです。
食事からのコレステロールもLDLコレステロールを高くしますが、個人差が大きく、飽和脂肪酸と比べると、その影響は小さく、食事からのコレステロールの上限に定まった見解はありません。
食事からの飽和脂肪酸と血中コレステロールとの関係は、食事からのコレステロールと血中のコレステロールとの関係よりも強く、LDL コレステロールが高い人は、まず飽和脂肪酸の摂りすぎを改善するべきで、鶏卵などコレステロールの多い食品の食べすぎにも注意すると良いでしょう。

家族性高コレステロール血症

家族性高コレステロール血症は、300 人に1人程度と比較的高頻度の遺伝性疾患です。
LDL コレステロールが高くなり、若い時から動脈硬化が進み、血管が細くなったり詰まったりする病気で、冠動脈で起こることが多く、心筋梗塞や狭心症を起こしやすくなります。
コレステロールが高く、若くして心筋梗塞、狭心症などを発症した血縁関係の人(親、兄弟、叔父、叔母、祖父母、子供など)がいる方は、特に注意が必要です。
家族性高コレステロール血症について、詳しく知りたい方は、当院循環器医にご相談ください。

中性脂肪高値の要因と改善方法

エネルギーを摂りすぎる、特に甘いものや酒・油もの・糖質を摂りすぎると中性脂肪が高値になることがあり、砂糖の入ったソフトドリンクを飲む習慣のある人に中性脂肪が高い人が多い傾向があります。
糖質の摂りすぎなどの食事習慣を改善し運動や減量を行うと、中性脂肪を下げることができます。
また背の青い魚に多く含まれるn-3 系(ω-3系)多価不飽和脂肪酸には、中性脂肪を下げる働きもあります。

HDLコレステロール低値の要因と改善方法

HDL コレステロール低値は中性脂肪の高値と連動することが多く、その要因は肥満や喫煙・運動不足なので、運動や減量・禁煙によりHDLコレステロールの上昇が見込まれます。
飲酒によりHDLコレステロールが高くなることがありますが、飲酒は高血圧や肝障害を悪化させるので、HDLコレステロールを上昇させるために飲酒するべきではありません。

糖尿病

ブドウ糖とインスリン

炭水化物は消化酵素によりブドウ糖に分解されて腸から吸収され血液の中に入ります。
血液中のブドウ糖の量が増えると膵臓からインスリンというホルモンが分泌され、血液中のブドウ糖を速やかに細胞内に取り込ませるように働きます。
ヒトは細胞に入ってきたブドウ糖をエネルギー源として利用して、筋肉を動かしたり、脳を働かせたりしています。

糖尿病と合併症

糖尿病は、インスリンの量が少なくなったり、その効きが悪くなったりして、血液中のブドウ糖が細胞に入ることができず、血液中のブドウ糖の量が多くなりすぎる病気です。
細胞に入ったブドウ糖はエネルギー源となりますが、細胞に入らない血液中のブドウ糖の量が多くなりすぎると、血管を傷つけたり、動脈硬化のリスクとなり、脳卒中や虚血性心疾患、失明や透析につながる糖尿病の3大合併症(網膜症、腎症、神経障害)が起こりやすくなります。

糖尿病の診断基準

血液中のブドウ糖の濃度のことを血糖値といいます。
空腹時の血糖値が126mg/dL以上、食事をとった後に測った血糖値(随時血糖値)が200mg/dL以上、あるいはHbA1cが6.5%以上と確認された場合には糖尿病である可能性が高くなります。
糖尿病の明らかな症状がある場合を除き、複数回の検査結果を総合的に判断して糖尿病と診断します。
特定健診では、血糖値異常を早期に発見するために、空腹時血糖値100mg/dL以上またはHbA1c 5.6%以上を高血糖の基準としています。

血糖測定時間 判定区分
空腹時 負荷後2時間
血糖値 126mg/dL以上 ◀または▶ 200mg/dL以上 糖尿病型
糖尿病型にも正常型にも属さないもの 境界型
110mg/dL未満 ◀または▶ 140mg/dL未満 正常型

糖尿病の予防

糖尿病の予防のためには、摂取エネルギー量をとりすぎないこと、運動をすること、アルコールをとりすぎないこと、喫煙しないこと、野菜や大豆製品、海藻、きのこなどを多くとることなどがあげられます。
特に、砂糖の入った飲み物をとりすぎる習慣のある人は、糖尿病のリスクが高まります。
肥満も糖尿病のリスクを高めますが、日本人ではやせていても糖尿病になりやすい人がいますので、肥満や過体重のない人でも注意が必要です。

それってなに? HbA1c(ヘモグロビン エー ワン シー)

HbA1cとは、ブドウ糖と結合しているヘモグロビンの割合のことです。
血糖値が高い状態が続くと、ブドウ糖と結合しているヘモグロビンが多くなりHbA1cが高くなります。
HbA1cは、だいたい2ヶ月くらいの血糖を反映しています。
血糖値は食事の影響によりその時々で変化しますが、HbA1cは直前の食事の影響を受けにくいので、糖尿病の指標として検査でよく利用されています。

禁煙

喫煙の影響

喫煙は心臓や脳に悪い影響を与え、心臓病や脳卒中の原因となります。
タバコの煙に含まれるニコチンは中枢神経を興奮させ、心拍数増加、末梢血管の収縮、血圧の上昇などを起こし心臓に大きな負担をかけます。
タバコの煙に含まれる一酸化炭素は、赤血球のヘモグロビンと結びつき、血液が酸素を運ぶ働きを妨げ、血管を詰まりやすくし、動脈硬化を促進させます。
喫煙は心臓病や脳卒中以外にも肺がんなどの悪性腫瘍や胃潰瘍・十二指腸潰瘍などの消化器の病気、喘息・慢性気管支炎などの呼吸器の病気、歯周病など、さまざまな病気の発症に深くかかわっています。

受動喫煙の影響

タバコの煙には、喫煙者がフィルターを通して直接吸い込む「主流煙」と、火のついた部分から立ち上る「副流煙」があり、ニコチンなどの有害物質が含まれる量は主流煙より副流煙の方がはるかに多く、喫煙は喫煙者だけでなく周囲の人の健康にまで悪影響を及ぼしています。
喫煙しない人が喫煙者と同じ空間にいて、副流煙を吸い込んでしまうことを受動喫煙といいます。

受動喫煙は、既に心臓病を患っている人に心筋梗塞などの発作を起こしやすくし、喫煙しない人の心筋梗塞、脳卒中、肺がんなどよる死亡のリスクを高めます。
受動喫煙の影響を最も受けやすいのは同じ家で暮らしている家族です。
親が喫煙者だと、その子供は気管支炎やぜんそく、アトピー性皮膚炎にかかりやすく、成長や視力、知能の発達にも悪い影響を及ぼすといわれています。

節酒

アルコールと循環器疾患

適量の飲酒は心筋梗塞などの発症リスクを下げ循環器疾患に保護的に働くとされていますが、過度の飲酒は循環器疾患のリスクになり、少量の飲酒でも結核や乳がんなどリスクを上昇させることがあるので、「節度ある適度な飲酒」を守ることが肝要です。
当然、現在飲酒していない人や飲めない人に飲酒を強要すべきではありません。

心臓によい飲酒量などない

2022年1月、世界心臓連合WHF は、適量の飲酒は心臓病のリスクを低下させるという広く信じられている考えに異議を唱えました。
「どの程度の飲酒量であっても、健康に生きられる時間を損なう原因になりうる。少量の飲酒でも、冠動脈疾患、脳卒中、心不全、高血圧性心疾患、心筋症、心房細動、動脈瘤などの心血管系疾患のリスクを高めることが様々な研究から明らかになっている。」ので、「心臓によい飲酒量などない。」と結論し、世界中で起こっているアルコール関連死や障害の過去に類を見ない増加に取り組むための緊急かつ決然とした行動を呼びかけました。
今後、飲酒の循環器疾患に対する見解が変化してくるかも知れません。

それってなに? お酒に強い体質と弱い体質

口から入ったアルコールは胃から20%、小腸から80%が吸収され、その大部分が肝臓で処理されます。
アルコールはアルコール脱水素酵素ADHなどによってアセトアルデヒドに、アセトアルデヒドはアルデヒド脱水素酵素ALDHにより酢酸に、酢酸は水と二酸化炭素に分解され、最後は汗や尿、呼気中に排出されます。このアセトアルデヒドが飲酒した時の悪酔いや頭痛、動悸の原因です。

悪酔いの原因となるアセトアルデヒドを分解するアルデヒド脱水素酵素ALDHには、アルデヒド濃度が低い時に働くALDH2と、高濃度にならないと働かないALDH1があり、ALDH2の活性が弱いか欠けていると、アセトアルデヒドが貯まりやすく、「お酒に弱い体質」になります。
ALDH2の活性は遺伝し、日本人の半数近くの人でALDH2の活性が弱いか欠けています。
ALDH2が欠けている人は、いくら訓練してもお酒に強くなることはないので、飲酒の無理強いをしてはいけません。
ところが、アルコールで全身の臓器に障害をきたすのは、むしろ「お酒に強いと言われる体質」の人なので注意が必要です。

身体活動・運動

身体活動(生活活動と運動を合わせたもの)を増加させると循環器疾患のリスクを減らすことができます。
「健康づくりのための身体活動基準2013(厚生労働省)」では、18~65歳の方は1週間に23メッツ・時、65歳以上の方は1週間に10メッツ・時の身体活動を薦めています。
安全で適正な運動強度での運動(有酸素運動、筋力トレーニング、バランストレーニングなど)を、生活習慣や嗜好を考慮して日常生活の中で行うと良いでしょう。
運動について詳しく知りたい方は、理学療法士にご相談ください。

運動の種類

有酸素運動 歩行、自転車エルゴメーター、リズミカルな体操など
筋力トレーニング 自身の体重やゴムバンドなどを使用する運動
バランストレーニング つま先と反対のかかとを揃えた立位など。
転倒防止にもなります。

それってなに? METs(メッツ)

メッツMETsとは身体活動(生活活動と運動を合わせたもの)の強度を表す単位で、国際的に使用されています。
安静時(静かに座っている状態)を1メッツとし、身体活動が安静時と比較して何倍のエネルギーを消費するかを表しています。安静時の2倍のエネルギーを消費する身体活動であれば2メッツとなります。
運動しているときの感覚で、「楽」に感じれば3メッツ、「やや楽」なら4メッツ、「ややきつい」なら5メッツという捉え方をしても良いです。
このメッツ(運動強度)に実施時間を掛けると、「メッツ・時」という身体活動量を計算できます。

メッツ 生活活動の例
1.8 METs 立ち話、立って電話をする、皿洗い
2.0 METs 非常にゆっくりした歩行(家の中)、料理や食材の準備、洗濯
2.3 METs ガーデニング、動物の世話、ピアノの演奏
2.5 METs 植物の水やり
3.0 METs 普通の速さの歩行(67m/分)、犬の散歩、電動自転車に乗る、立ってギターの演奏
3.3 METs 掃除機かけ、体を動かすスポーツ観戦
3.5 METs 散歩(75~85m/分)、モップかけ、床磨き、風呂掃除、庭の草むしり、車椅子を押す
4.0 METs 自転車に乗る(16km/時未満)、階段をゆっくり上る
5.0 METs 動物と活発に遊ぶ(歩く/走る)
5.8 METs 子どもと活発に遊ぶ(歩く/走る)
8.3 METs 荷物を上の階に運ぶ
8.8 METs 階段を速く上る
メッツ 運動の例
2.3 METs ストレッチ
2.5 METs ヨガ、ビリヤード
3.0 METs 社交ダンス、太極拳
3.5 METs 軽い筋トレ、家での軽い体操
4.0 METs 卓球、ラジオ体操第1
4.3 METs やや速めに歩く(94m/分)
4.5 METs 水中歩行、ラジオ体操第2
5.0 METs かなり速く歩く(107m/分)
6.0 METs ゆっくりとしたジョギング、のんびり泳ぐ
6.5 METs 山登り(4kg未満の荷物を持って)
7.0 METs ジョギング、スキー
8.0 METs サイクリング(約20km/時)
8.3 METs ランニング(134m/分)

次回は、『ステージB』について説明します。

【参考資料】

  • 禁煙のすすめ タバコをやめようかと思っているあなたへ:日本心臓財団
  • 心不全手帳(第3版):日本心不全学会,2022年
  • 高血圧の話:日本高血圧協会
  • 糖尿病治療ガイド2022-2023:日本糖尿病学会,2022年,文光堂
  • 心不全療養指導士認定試験ガイドブック(改訂第2版):日本循環器学会,2022年,南江堂

【参考ホームページ】

  • e-ヘルスネット〔厚生労働省〕
  • 心臓血管研究所付属病院
  • 日本心臓財団
  • 健康長寿ネット〔長寿科学振興財団〕
  • 人とお酒のイイ関係〔アサヒビール〕
  • 日本循環器協会
  • 国立循環器病研究センター
  • 日本健康運動研究所
  • 糖尿病情報センター〔国立国際医療センター〕
  • 健康チャンネル〔NHK〕
  • 日本動脈硬化学会
  • 「メッツ」で毎日の介護予防を〔藤井寺市〕

心不全通信 No.11「心臓の構造・働きと心不全」

2023/06/02


心不全通信 No.11 2023年6月号を公開しました。

今回は「心臓の構造・働きと心不全」について説明します。

  • 心臓の構造
  • 電気信号(刺激伝導系)
  • 冠動脈
  • 心臓の役割
  • 心不全の定義
  • 心不全の分類
  • 心不全による症状や徴候
  • ポンプ機能低下(血流低下)による症状
  • うっ血による症状
  • 心不全の病の軌跡
  • 心不全の4つのステージ

心不全通信 No.11 2023年6月号

心臓の構造

心臓は4つの部屋(左右の心房・心室)に分かれています。
心室と心房の間、心室から血管への出口には“弁”があり、血液が逆流することなく一方通行で流れるようになっています。

聴診器で弁が閉じるときに聞こえる音が“心音”です。

電気信号(刺激伝導系)

心臓を収縮する合図は、右心房の上大静脈の開口部近くにある洞結節から始まります。
洞結節で発生した電気信号は、左右の心房の中を伝播して房室結節に伝わり、その後、ヒス束→左脚右脚に分枝して、心室にあるプルキンエ線維から心室に伝わります。

この電気信号がタイミングよく、スムーズに心臓内を伝わることで、心臓が収縮して心臓から血液が拍出されます。
この電気信号の発生や伝導に異常が生じると不整脈が起こります。

冠動脈

冠動脈は、心臓が活動するために必要な酸素や栄養を心筋に供給しており、左心室から出ている大動脈が左右2本に、さらに心臓の表面で枝分れし、最後は心臓全体を血液が循環できるようになっています。
冠動脈が詰まると心筋梗塞になりますが、心臓への影響は冠動脈が詰まった部位により異なります。

心臓の役割

心臓の主な役割は、ポンプ機能(身体の必要に応じて血液を安定して身体に供給すること)で、「収縮機能」と「拡張機能」という2つの機能でポンプ機能をはたしています。

収縮機能は、心臓を収縮させて血液を全身へ送り出す機能で、拡張機能は全身から戻ってきた血液を心臓に取り込む機能です。
心臓には、運動とか心筋梗塞などの身体に生じる様々な変化に対応できるように、ポンプ機能を調節する機構(代償機構)が備わっているのですが、この代償機構が破綻して身体が必要とする量の血液を供給できなくなると心不全になります。

心不全の定義

心不全は、「なんらかの心臓機能障害、すなわち、心臓に器質的および/あるいは機能的異常が生じて心ポンプ機能の代償機転が破綻した結果、呼吸困難・倦怠感や浮腫が出現し、それに伴い運動耐用能が低下する臨床症候群」と医学的には定義されています。
簡単に、『心不全は、心臓が悪いために、息切れやむくみがおこり、だんだん悪くなり、生命を縮める病気』と理解すると良いでしょう。

心不全の分類

心不全は、発症や進行経過、左室の収縮機能、原因となる心臓の部位などにより分類されます。

急性心不全と慢性心不全

心不全は、病状の発症・進行の経過によって、急性心不全と慢性心不全に大別されます。
急性心不全は、心筋梗塞や突然に起こった不整脈などによって急激に心臓のポンプ機能が弱まり、時間や日にち単位で発症・進行する心不全です。
慢性心不全は、高血圧などにより月や年単位で進行・悪化する心不全です。

「ヘフレフ」と「ヘフペプ」

心不全は、収縮不全(左心室の収縮機能が低下すること)によって起こるものと、収縮機能は保たれているにもかかわらず、拡張不全(左心室の拡張機能が低下すること)によって心臓へ血液が戻りにくくなり、体内に血液が滞留することで起こるものがあります。
収縮不全により心臓のポンプ機能が低下している心不全をヘフレフ(HFrEF)といい、心臓の収縮機能は保たれているけれど拡張不全のために起こる心不全をヘフペフ(HFpEF)といいます。

心不全の約半数がヘフペフで、高齢の女性に多く、高血圧や糖尿病などを併存していることが多いです。

ヘフレフとヘフペプでは、有効な薬物療法に違いがあります。
ヘフレフとヘフペフの中間の心不全は、ヘフエムレフ(HFmrEF)です。

ヘフレフ(HFrEF) Heart Failure with reduced Ejection Fraction
ヘフエムレフ(HFmrEF) Heart Failure with midrange Ejection Fraction
ヘフペフ(HFpEF) Heart Failure with preserved Ejection Function

左心不全と右心不全

左心房・心室が原因で起こる心不全が「左心不全」で、右心房・心室が原因で起こる心不全が「右心不全」です。
両方が悪くなる両心不全もしばしばあります。

心不全による症状や徴候

心不全による症状や徴候には、ポンプ機能低下(心臓が血液を全身に十分に送り出せない)によるものとうっ血(心臓が全身に血液を送り出せないために体内に血液が滞留する)によるものがあります。

ポンプ機能低下(血流低下)による症状

だるい(倦怠感)、疲れやすい

心不全で臓器に供給される血流が減ると、運動するために必要な量の血液が筋肉に供給されなくなり、筋肉は酸欠状態となって、だるさや疲れを感じるようになります。

乏尿・夜間多尿

心不全の初期より、日中は活動のため必要な骨格筋に優先的に血液が配分され、腎臓への血流は減少して尿の量も減りますが、夜間に活動量が減ると腎臓への血流も増えてくるので、夜間の尿量が増えます。

精神神経症状

心不全で脳の血流の低下や肺うっ血による酸素不足により、意識障害や抑うつ・不安、せん妄などが起こることがあります。

手足が冷たい

心不全で末梢組織への血流が低下すると、四肢(手や足)は湿った感じがする冷たさがあり、血色が悪く、蒼白で、口唇や爪床にチアノーゼが起こることがあります。
脈圧の低下(脈圧収縮期血圧比が25%以下)では末梢組織での血流低下が強く疑われます。

うっ血による症状

体重の増加

心不全で心臓に戻るべき血液が心臓に戻ることができないと、臓器に「うっ血」が起こり、足がむくむ、胸水が溜まる、肺水腫などが生じます。
心不全で全身を循環する血液の量が減ると腎臓の血流も少なくなって、腎臓で作られる尿量が少なくなるので、腎臓から尿として体外に排出される水分も体の中にたまることになり、体重が増えます。

このように心不全で「体重が増える」ことは肥満ではなく、「体に水分がたまること」つまり「心不全の悪化」を意味します。
そのため、毎日の体重測定は、心不全の状態をしるために非常に大切です。

左心不全によるうっ血の症状

左心不全で心臓から送り出される血液が滞留すると、肺にうっ血が起こります。
安静にしている時には、なにも症状がないのですが、今まで大丈夫だった距離の歩行や階段のぼりでも息切れを感じるようになります。
重症化すると安静にしていても息切れを感じるようになり、発作性夜間呼吸困難や起座呼吸を認めるようになります。

これは心不全が原因で肺水腫(肺の毛細血管から血液の液体成分が肺胞内に滲み出た状態)となり、酸素と二酸化炭素の入れ替えがうまくできなくなったために起こります。
また、より多くの酸素を取り込むために、呼吸回数が多くなり、呼吸が浅く速くなります。

右心不全によるうっ血の症状

右心不全では、全身から心臓に血液が戻りにくくなります。そのため体重が増加し、足などに浮腫が起こります。
浮腫は重力の影響を受けるので、座位や臥位の状態が多い人では、足ではなく、最初に臀部や背部に浮腫があらわれ、その後上肢や顔面に浮腫があらわれることもあります。
また、腹部臓器にうっ血が起こると、胸水や腹水が溜まったり、腸管の動きが悪くなって食欲不振、便秘、悪心・嘔吐や腹部膨満感などが起こります。

【起座呼吸】

起座位(上体をほぼ90 度に起こした姿勢)で呼吸困難が改善し臥位になるとすぐに息切れするようになること。
起きているときは重力で下肢などに溜まっていた血管から漏れ出た体液が、臥位になると重力の影響が少なくなって血管の中に戻ってきます。
すると血管の中を流れる血液の量が増えることになり、心臓への負担が増して肺水腫になり息切れするようになります。

【発作性夜間呼吸困難】

寝る前に症状はないのですが、寝てから2~4時間後に息苦しさにより眠れなくなること。
夜間に咳や痰が出ることがあります。起座位をとると症状が改善することもあります。

心不全によるポンプ機能低下とうっ血に伴う症状
ポンプ機能低下 左心不全のうっ血 右心不全のうっ血
・易疲労感
・倦怠感
・乏尿・夜間多尿
・記銘力・集中力低下
・意識障害
・手足が冷たい
・動いた時の息切れ
・発作性夜間呼吸困難
・起座呼吸
・足のむくみ(浮腫)
・食欲不振
・便秘
・悪心・嘔吐
・腹部膨満感
・体重増加

心不全の病の軌跡

残念ながら、心不全は完全に治ることはなく、症状が良くなったり悪くなったりを繰り返しながら一方通行で進行していきます。
そのため、心不全と上手に付き合い、できるだけ心不全が進行しないようにすることが肝要です。

心不全の4つのステージ

心不全の療養は、4つのステージに分けて考えるとよいです。

ステージAとBは、まだ心不全の症状がでていない状態であり、心不全に進展させる要因(高血圧や糖尿病、心筋梗塞など)の治療を行うことで心不全にならないようにすることが治療目標となります。

ステージCは、心不全の症状が出現している状態であり、心不全の症状が急激に悪化するような事態(慢性心不全の急性増悪)をできるだけ回避することが治療目標となります。

ステージDは、いろいろな心不全の治療を行っても心不全の徴候が改善しない状態であり、心不全の治療を行いつつも緩和ケアや終末期ケアのウエイトが大きくなります。

次回は、『心不全ステージA』について説明します。

【参考資料】
<書籍・文献>

  • 日本心臓財団,心不全に負けずに健康長寿を目指そう,2020年11月
  • 日本循環器学会,心不全療養指導士認定試験ガイドブック改訂第2版,南江堂,2022年

<ホームページ>

  • 日本心臓財団
  • 日本循環器協会
  • 心不全のいろは
  • トーアエイヨー
  • バイエル薬品
  • 小野薬品工業
  • 日本ベーリンガーインゲルハイム
  • MEDLEY
  • Medical Note

発熱・かぜ症状の方は来院前に連絡を

2023/05/15

心不全通信 No.10「心不全の薬物治療」

2023/02/02


心不全通信 No.10 2023年2月号を公開しました。

心不全は「心臓が悪いために、息切れやむくみが起こり、だんだん悪くなって、生命を縮める病気」です。坂道や階段での息切れは、年齢のせいではなく心不全かもしれません。
今回は、「心不全の薬物治療」について説明します。

  • 心不全で起こる変化(代償機転)
  • 心不全の治療薬の効き方
  • 心不全の治療目標
  • 心不全の薬物治療
  • 心不全を悪化させないためには
  • 薬に興味を持つことが大切!

心不全通信 No.10 2023年2月号

心不全とは

心不全は「心臓が悪いために、息切れやむくみが起こり、だんだん悪くなって、生命を縮める病気」です。
坂道や階段での息切れは、年齢のせいではなく心不全かもしれません。

今回は、「心不全の薬物治療」について説明します。

心不全で起こる変化(代償機転)

心不全になると全身に血液などの体液を循環させるポンプ機能が低下します。
このポンプ機能の低下を補うために、脈拍が増えたり血圧が高くなったりといった様々な変化(代償機転)が起こります。

代償機転には、心臓に負担をかけるもの(心筋障害因子)だけでなく、心臓に優しいもの(心筋保護因子)もあります。
心臓に負担がかかりすぎて、代償機転のバランスが心筋障害因子のほうに崩れると、息切れなどの心不全の症状が起こります。

心筋保護因子

ナトリウム利尿ペプチド(ANP、BNP、CNPなど)は、心不全になるとより多く分泌されるホルモンの1つで、血管を広げたり、余分な水分やナトリウムを尿中に排出させたりして、循環させなければいけない体液量を減少させて心臓の負担を減らします。

ANP 心房性(A型)ナトリウム利尿ペプチド
BNP 脳性(B型)ナトリウム利尿ペプチド
CNP C型ナトリウム利尿ペプチド

心筋障害因子

心不全になると循環する体液の量が減り、血圧が下がってくるので、これを修正するために、体液の量を増やして、血圧を上げるような変化がおきます。

交感神経

交感神経は亢進して、心拍数を増加させて心拍出量を増やすことで循環する体液量を増加させ、末梢血管を収縮させて血圧を上昇させます。

レニン・アンジオテンシン・アルドステロン系(RAA 系)

RAA系という一連のホルモンの連携によって、血管を収縮させ、腎臓での水やナトリウムの再吸収を増やすことで、血圧を上げたり体液の量を増やしたりします。

抗利尿ホルモン

排尿量を減らすホルモン(抗利尿ホルモン)であるバソプレシンも血管収縮や腎臓での水の再吸収を増やすことによって、血圧を上げたり体液量を増やすように働きます。

心不全の治療薬の効き方

心不全の治療薬は、「心臓を保護する薬」「心臓を休ませる薬」「心臓を楽にする薬」「心臓を力づける薬」に分けると理解しやすいです。
これらの働きによって、心筋保護因子や心筋障害因子に作用して、崩れた代償機転のバランスを整えます。

心不全の治療薬

心臓を保護する薬 ACE阻害薬 ARB MRA ARNI
心臓を休ませる薬 β遮断薬 ジゴキシン イバブラジン
心臓を楽にする薬 利尿薬 SGLT2阻害薬
心臓を力づける薬 強心薬 ピモベンダン

心臓を保護する薬

ACE阻害薬:アンジオテンシン変換酵素阻害薬

ARB:アンジオテンシンⅡ受容体拮抗薬

心不全ではアンジオテンシンというホルモンが過剰に分泌されて体内のナトリウムの量が増えるので、心臓が循環させないといけない体液量が増え、血管も収縮して血圧が上昇するので、心臓に負担がかかります。
ACE阻害薬やARBは、アンジオテンシンの働きを抑えることで、心臓の負担を軽減し心臓を保護します。

副作用には、腎機能の低下、血圧の低下、血中カリウム値の上昇などがあります。
ACE 阻害薬では副作用として空咳がみられることがあり、副作用でACE阻害薬が使用できない時にはARBを使用します。

MRA:ミネラルコルチコイド受容体拮抗薬

MRAは、水分貯留や血圧上昇に関与するアルドステロンというホルモンの働きを抑え心臓を保護します。

副作用には、血中カリウム値の上昇、胸が張る(女性化乳房)などがありますが、新しいMRAでは女性化乳房が起こりにくくなっています。

ARNI:アンジオテンシン受容体ネプリライシン阻害薬

ARNIであるサクビトリルバルサルタン(エンレスト錠)は新しく使用できるようになった薬で、心筋保護因子のANPを増やす働きとARBの働きの両方の作用があります。
サクビトリルバルサルタンは、心不全による入院を減らすことができます。

副作用には、低血圧、高カリウム血症などがあります。

心臓を休ませる薬

β遮断薬

心不全では交感神経が興奮しすぎて過度の血圧上昇、脈拍増加などが起きており、心臓に負担がかかっています。
β遮断薬は、β受容体(心臓に多く存在している交感神経から指令を受ける受容体)の働きを抑えることで、血圧を下げたり、脈を遅くしたりして、働きすぎの心臓を休ませて心臓を元気にします。
少ない量から始め、血圧・脈拍・症状をみながら徐々に増やしていきます。

副作用には、血圧が下がりすぎる、脈が遅くなりすぎるなどがあります。

イバブラジン(コララン錠)

β遮断薬は、心拍数を下げるだけでなく、心臓のポンプ機能も下げる作用があり、心不全には少し好ましくありません。
新しく使用できるようなったイバブラジンは、心拍数を下げることに特化した薬で、心臓の拍動リズムを作り出している洞房結節に作用して、心臓のポンプ機能を悪化させることなく脈拍だけをゆっくりにします。

副作用には、目の症状(キラキラ、チカチカ、稲妻のような光が見える)や立ちくらみ、ふらつきなどがあります。

心臓を楽にする薬

利尿薬

心不全で余分な水分が身体にたまると浮腫がおこり、肺に水が溜まると息苦しさを感じるようになります。
利尿薬は、尿として余分な水分を体外に排出させて、うっ血の症状(浮腫、息苦しさなど)を軽減します。

利尿薬を服用すると尿が近くなることがありますが、自己判断で中止しないでください。
日常生活に困るようであれば、医師に相談してください。

SGLT2阻害薬

SGLT2阻害薬は、尿として水分とともに余分な糖も排出させて血糖値を下げることができるので、糖尿病の薬として使われています。
このSGLT2阻害薬は、余分な水分を尿として排出するだけでなく、心臓や腎臓にも良い働きをして心不全の予後も改善するので、心不全でも使用されるようになりました。
SGLT2 阻害薬を血糖値が高くない人が服用しても過剰に血糖値を下げることはないので、血糖値が高くない心不全の人が使用しても低血糖になる心配はありません。
発熱や下痢などで、食事ができないときには休薬が必要です。

副作用には、排尿時の違和感や痛み、ふらつきやだるさなどがあります。

心臓を力づける薬

強心薬:ピモベンダンなど

強心薬は、心臓の筋肉に作用して、心臓のポンプ機能を強くします。
強心薬を使用することは疲れている心臓に鞭打つことになり、生命予後を悪くすると考えられていますが、その使用により心不全の症状(倦怠感、息苦しさなど)を改善することができます。
そのため、「予後の改善」より「症状の改善」を優先したい場合に使用します。

ベルイシグアト(ベリキューボ錠)

新しく使用できるようになった薬です。
血管内では一酸化窒素(NO)が情報伝達の重要な働きをしていますが、心不全になるとNOが作用する受容体の機能不全が生じます。
ベルイシグアトは、NOが作用する受容体を直接刺激したり、NOが作用する受容体の感受性を高めたりすることによって、心臓収縮力を強めたり血管の機能を調節したりして心不全の進行を抑制します。

副作用には、脱力感、めまい、ふらつき、立ちくらみ、意識の消失などがあります。

心不全の治療目標

心不全は適切な治療を行っていても徐々に進展し突然死することもあるので、心不全になってからの治療だけでなく、心不全にならないようにする治療も大切です。
そのため心不全の治療目標は、上の図のように心不全を発症する前の段階(リスクステージ)を含めた4つのステージに分けて考えるとわかりやすいです。

心不全発症前の治療目標

心不全を発症する前の段階(リスクステージ)は、ステージA・Bが該当します。
ステージA・Bでは、心不全予防や心不全になるのを遅らせるために、心不全を引き起こす原因となる高血圧や糖尿病、動脈硬化症の要因となる高コレステロール血症などの脂質異常症をきちんと治療することが大切です。

「禁煙」は必ずしましょう。

心不全発症後の治療目標

心不全を発症した慢性心不全の状態がステージC で、心不全の増悪を繰り返して治療が困難な状態(ステージD)になり、最期を迎えることになります。
急性心不全で初めて入院した後1 年以内に心不全で再入院する人は4 人に1 人とされており、急性増悪(急性心不全)を繰り返すと心不全が重症化するので、ステージC 以降は症状の改善や心不全の増悪を防ぎ、再入院しないようにすることが治療目標となり、終末期になるほど症状の軽減が重視されます。

心不全の薬物治療

心不全の薬物治療は、「予後の改善」と「症状の改善」の2 つの視点で行いますが、心臓のポンプ機能の違いによって、予後を改善するために使用する薬が違ってきます。
心臓のポンプ機能は、左心室から血液を駆出する能力を心臓エコー検査で測定することでわかります。

心臓のポンプ機能の違いにより心不全は、左心室の収縮機能が低下したHFrEF〔ヘフレフ〕、左心室の収縮機能は保たれているが左心室の拡張機能が障害されているHFpEF〔ヘフペフ〕、HFrEF〔ヘフレフ〕とHEpEF〔ヘフペフ〕の中間のHFmrEF〔ヘフエムレフ〕の3つに分類されます。
HFpEF〔ヘフペフ〕は、近年増加してきており心不全患者の約半数を占めます。

HFrEF〔ヘフレフ〕で用いる薬

アンジオテンシン変換酵素阻害薬(ACE 阻害薬)かアンジオテンシンⅡ受容体拮抗薬(ARB)と交感神経の働きを抑えるβ 遮断薬を併用し、場合によってはミネラルコルチコイド受容体拮抗薬(MRA)を追加します。
この治療で効果が不十分なときにはACE 阻害薬(あるいはARB)をアンジオテンシン受容体ネプリライシン阻害薬(ARNI)に切り替えます。
ACE 阻害薬またはARB、MRA、ARNI は、心不全の初期から継続して使用します。
最近では、SGLT2 阻害薬やイバブラジンも使用するようになってきています。

HFpEF〔ヘフペフ〕で用いる薬

HFrEF〔ヘフレフ〕の予後を改善する薬でもHFpEF〔ヘフペプ〕の予後も改善するわけではありません。
今まではHFpEF〔ヘフペプ〕に有効な薬はなかったのですが、最近SGLT2 阻害薬のエンパグリフロジン(ジャディアンス錠)やダパグリフロジン(フォシーガ錠)がHFrEF〔ヘフレフ〕だけでなくHEpEF〔ヘフペフ〕でも有効であることがわかりました。
ARNI のサクビトリルバルサルタンもHFpEF〔ヘフペフ〕で使用できます。

HEmrEF〔ヘフエムレフ〕で用いる薬

残念ながら臨床研究が十分に行われておらず、どの薬を使うと良いのかわかっていません。
そのため、個々の病状に応じて使用する薬を判断することになります。

心不全を悪化させないためには

心不全を悪化させないためには、きちんと薬を服用するとともに日常生活にも気をつける必要があります。
つまり、生活習慣を改善(塩分を摂りすぎない食事、医師のアドバイスによる運動など)し、インフルエンザや肺炎球菌などのワクチン接種をして感染症にかからないようにして、きちんと受診すると良いです。

薬に興味を持つことが大切!

今回は薬のはなしで、わかりにくいことが多かったのではないでしょうか。
あなたが服用している薬に興味を持つこと、その薬を理解して納得して服用することは心不全の治療に限らず、薬物治療では非常に大切なことです。
心不全の薬についてもっと知りたいとき、わからないことがあるときは、何度でも薬剤師に相談すると良いです。当然、医師に相談されても良いです。

【参考資料】
<書籍・文献>

  • 心不全療養指導士認定試験ガイドブック改訂第2版,日本循環器学会,南山堂,2022年
  • 急性・慢性心不全診療ガイドライン(2017年改訂版),日本循環器学会
  • 心不全手帳(第3版),日本心不全学会,2022年
  • 沢井製薬提供冊子:多職種で取り組む心不全の診療,2022年

<ホームページ>

  • NHK 健康Ch,心不全の薬による治療,2021年10月29日更新
  • NHK 健康CH,心不全とは?症状と主な原因(狭心症、高血圧など)入院1年以内に2割が死亡,2021年5月16日更新

年末年始休診のお知らせ

2022/12/23

こんにちは。みわ記念病院から年末年始休診のご案内です。

令和4年12月29日(木)まで通常通り診療
令和4年12月30日(金)~令和5年1月3日(火)の間、休診
令和4年1月4日(水)より通常通り診療

ご迷惑をおかけいたしますが、ご協力をよろしくお願いいたします。


横向きにすると、パソコン版になります。