お知らせ


心不全通信 No.10「心不全の薬物治療」



心不全通信 No.10 2023年2月号を公開しました。

心不全は「心臓が悪いために、息切れやむくみが起こり、だんだん悪くなって、生命を縮める病気」です。坂道や階段での息切れは、年齢のせいではなく心不全かもしれません。
今回は、「心不全の薬物治療」について説明します。

  • 心不全で起こる変化(代償機転)
  • 心不全の治療薬の効き方
  • 心不全の治療目標
  • 心不全の薬物治療
  • 心不全を悪化させないためには
  • 薬に興味を持つことが大切!

心不全通信 No.10 2023年2月号

心不全とは

心不全は「心臓が悪いために、息切れやむくみが起こり、だんだん悪くなって、生命を縮める病気」です。
坂道や階段での息切れは、年齢のせいではなく心不全かもしれません。

今回は、「心不全の薬物治療」について説明します。

心不全で起こる変化(代償機転)

心不全になると全身に血液などの体液を循環させるポンプ機能が低下します。
このポンプ機能の低下を補うために、脈拍が増えたり血圧が高くなったりといった様々な変化(代償機転)が起こります。

代償機転には、心臓に負担をかけるもの(心筋障害因子)だけでなく、心臓に優しいもの(心筋保護因子)もあります。
心臓に負担がかかりすぎて、代償機転のバランスが心筋障害因子のほうに崩れると、息切れなどの心不全の症状が起こります。

心筋保護因子

ナトリウム利尿ペプチド(ANP、BNP、CNPなど)は、心不全になるとより多く分泌されるホルモンの1つで、血管を広げたり、余分な水分やナトリウムを尿中に排出させたりして、循環させなければいけない体液量を減少させて心臓の負担を減らします。

ANP 心房性(A型)ナトリウム利尿ペプチド
BNP 脳性(B型)ナトリウム利尿ペプチド
CNP C型ナトリウム利尿ペプチド

心筋障害因子

心不全になると循環する体液の量が減り、血圧が下がってくるので、これを修正するために、体液の量を増やして、血圧を上げるような変化がおきます。

交感神経

交感神経は亢進して、心拍数を増加させて心拍出量を増やすことで循環する体液量を増加させ、末梢血管を収縮させて血圧を上昇させます。

レニン・アンジオテンシン・アルドステロン系(RAA 系)

RAA系という一連のホルモンの連携によって、血管を収縮させ、腎臓での水やナトリウムの再吸収を増やすことで、血圧を上げたり体液の量を増やしたりします。

抗利尿ホルモン

排尿量を減らすホルモン(抗利尿ホルモン)であるバソプレシンも血管収縮や腎臓での水の再吸収を増やすことによって、血圧を上げたり体液量を増やすように働きます。

心不全の治療薬の効き方

心不全の治療薬は、「心臓を保護する薬」「心臓を休ませる薬」「心臓を楽にする薬」「心臓を力づける薬」に分けると理解しやすいです。
これらの働きによって、心筋保護因子や心筋障害因子に作用して、崩れた代償機転のバランスを整えます。

心不全の治療薬

心臓を保護する薬 ACE阻害薬 ARB MRA ARNI
心臓を休ませる薬 β遮断薬 ジゴキシン イバブラジン
心臓を楽にする薬 利尿薬 SGLT2阻害薬
心臓を力づける薬 強心薬 ピモベンダン

心臓を保護する薬

ACE阻害薬:アンジオテンシン変換酵素阻害薬

ARB:アンジオテンシンⅡ受容体拮抗薬

心不全ではアンジオテンシンというホルモンが過剰に分泌されて体内のナトリウムの量が増えるので、心臓が循環させないといけない体液量が増え、血管も収縮して血圧が上昇するので、心臓に負担がかかります。
ACE阻害薬やARBは、アンジオテンシンの働きを抑えることで、心臓の負担を軽減し心臓を保護します。

副作用には、腎機能の低下、血圧の低下、血中カリウム値の上昇などがあります。
ACE 阻害薬では副作用として空咳がみられることがあり、副作用でACE阻害薬が使用できない時にはARBを使用します。

MRA:ミネラルコルチコイド受容体拮抗薬

MRAは、水分貯留や血圧上昇に関与するアルドステロンというホルモンの働きを抑え心臓を保護します。

副作用には、血中カリウム値の上昇、胸が張る(女性化乳房)などがありますが、新しいMRAでは女性化乳房が起こりにくくなっています。

ARNI:アンジオテンシン受容体ネプリライシン阻害薬

ARNIであるサクビトリルバルサルタン(エンレスト錠)は新しく使用できるようになった薬で、心筋保護因子のANPを増やす働きとARBの働きの両方の作用があります。
サクビトリルバルサルタンは、心不全による入院を減らすことができます。

副作用には、低血圧、高カリウム血症などがあります。

心臓を休ませる薬

β遮断薬

心不全では交感神経が興奮しすぎて過度の血圧上昇、脈拍増加などが起きており、心臓に負担がかかっています。
β遮断薬は、β受容体(心臓に多く存在している交感神経から指令を受ける受容体)の働きを抑えることで、血圧を下げたり、脈を遅くしたりして、働きすぎの心臓を休ませて心臓を元気にします。
少ない量から始め、血圧・脈拍・症状をみながら徐々に増やしていきます。

副作用には、血圧が下がりすぎる、脈が遅くなりすぎるなどがあります。

イバブラジン(コララン錠)

β遮断薬は、心拍数を下げるだけでなく、心臓のポンプ機能も下げる作用があり、心不全には少し好ましくありません。
新しく使用できるようなったイバブラジンは、心拍数を下げることに特化した薬で、心臓の拍動リズムを作り出している洞房結節に作用して、心臓のポンプ機能を悪化させることなく脈拍だけをゆっくりにします。

副作用には、目の症状(キラキラ、チカチカ、稲妻のような光が見える)や立ちくらみ、ふらつきなどがあります。

心臓を楽にする薬

利尿薬

心不全で余分な水分が身体にたまると浮腫がおこり、肺に水が溜まると息苦しさを感じるようになります。
利尿薬は、尿として余分な水分を体外に排出させて、うっ血の症状(浮腫、息苦しさなど)を軽減します。

利尿薬を服用すると尿が近くなることがありますが、自己判断で中止しないでください。
日常生活に困るようであれば、医師に相談してください。

SGLT2阻害薬

SGLT2阻害薬は、尿として水分とともに余分な糖も排出させて血糖値を下げることができるので、糖尿病の薬として使われています。
このSGLT2阻害薬は、余分な水分を尿として排出するだけでなく、心臓や腎臓にも良い働きをして心不全の予後も改善するので、心不全でも使用されるようになりました。
SGLT2 阻害薬を血糖値が高くない人が服用しても過剰に血糖値を下げることはないので、血糖値が高くない心不全の人が使用しても低血糖になる心配はありません。
発熱や下痢などで、食事ができないときには休薬が必要です。

副作用には、排尿時の違和感や痛み、ふらつきやだるさなどがあります。

心臓を力づける薬

強心薬:ピモベンダンなど

強心薬は、心臓の筋肉に作用して、心臓のポンプ機能を強くします。
強心薬を使用することは疲れている心臓に鞭打つことになり、生命予後を悪くすると考えられていますが、その使用により心不全の症状(倦怠感、息苦しさなど)を改善することができます。
そのため、「予後の改善」より「症状の改善」を優先したい場合に使用します。

ベルイシグアト(ベリキューボ錠)

新しく使用できるようになった薬です。
血管内では一酸化窒素(NO)が情報伝達の重要な働きをしていますが、心不全になるとNOが作用する受容体の機能不全が生じます。
ベルイシグアトは、NOが作用する受容体を直接刺激したり、NOが作用する受容体の感受性を高めたりすることによって、心臓収縮力を強めたり血管の機能を調節したりして心不全の進行を抑制します。

副作用には、脱力感、めまい、ふらつき、立ちくらみ、意識の消失などがあります。

心不全の治療目標

心不全は適切な治療を行っていても徐々に進展し突然死することもあるので、心不全になってからの治療だけでなく、心不全にならないようにする治療も大切です。
そのため心不全の治療目標は、上の図のように心不全を発症する前の段階(リスクステージ)を含めた4つのステージに分けて考えるとわかりやすいです。

心不全発症前の治療目標

心不全を発症する前の段階(リスクステージ)は、ステージA・Bが該当します。
ステージA・Bでは、心不全予防や心不全になるのを遅らせるために、心不全を引き起こす原因となる高血圧や糖尿病、動脈硬化症の要因となる高コレステロール血症などの脂質異常症をきちんと治療することが大切です。

「禁煙」は必ずしましょう。

心不全発症後の治療目標

心不全を発症した慢性心不全の状態がステージC で、心不全の増悪を繰り返して治療が困難な状態(ステージD)になり、最期を迎えることになります。
急性心不全で初めて入院した後1 年以内に心不全で再入院する人は4 人に1 人とされており、急性増悪(急性心不全)を繰り返すと心不全が重症化するので、ステージC 以降は症状の改善や心不全の増悪を防ぎ、再入院しないようにすることが治療目標となり、終末期になるほど症状の軽減が重視されます。

心不全の薬物治療

心不全の薬物治療は、「予後の改善」と「症状の改善」の2 つの視点で行いますが、心臓のポンプ機能の違いによって、予後を改善するために使用する薬が違ってきます。
心臓のポンプ機能は、左心室から血液を駆出する能力を心臓エコー検査で測定することでわかります。

心臓のポンプ機能の違いにより心不全は、左心室の収縮機能が低下したHFrEF〔ヘフレフ〕、左心室の収縮機能は保たれているが左心室の拡張機能が障害されているHFpEF〔ヘフペフ〕、HFrEF〔ヘフレフ〕とHEpEF〔ヘフペフ〕の中間のHFmrEF〔ヘフエムレフ〕の3つに分類されます。
HFpEF〔ヘフペフ〕は、近年増加してきており心不全患者の約半数を占めます。

HFrEF〔ヘフレフ〕で用いる薬

アンジオテンシン変換酵素阻害薬(ACE 阻害薬)かアンジオテンシンⅡ受容体拮抗薬(ARB)と交感神経の働きを抑えるβ 遮断薬を併用し、場合によってはミネラルコルチコイド受容体拮抗薬(MRA)を追加します。
この治療で効果が不十分なときにはACE 阻害薬(あるいはARB)をアンジオテンシン受容体ネプリライシン阻害薬(ARNI)に切り替えます。
ACE 阻害薬またはARB、MRA、ARNI は、心不全の初期から継続して使用します。
最近では、SGLT2 阻害薬やイバブラジンも使用するようになってきています。

HFpEF〔ヘフペフ〕で用いる薬

HFrEF〔ヘフレフ〕の予後を改善する薬でもHFpEF〔ヘフペプ〕の予後も改善するわけではありません。
今まではHFpEF〔ヘフペプ〕に有効な薬はなかったのですが、最近SGLT2 阻害薬のエンパグリフロジン(ジャディアンス錠)やダパグリフロジン(フォシーガ錠)がHFrEF〔ヘフレフ〕だけでなくHEpEF〔ヘフペフ〕でも有効であることがわかりました。
ARNI のサクビトリルバルサルタンもHFpEF〔ヘフペフ〕で使用できます。

HEmrEF〔ヘフエムレフ〕で用いる薬

残念ながら臨床研究が十分に行われておらず、どの薬を使うと良いのかわかっていません。
そのため、個々の病状に応じて使用する薬を判断することになります。

心不全を悪化させないためには

心不全を悪化させないためには、きちんと薬を服用するとともに日常生活にも気をつける必要があります。
つまり、生活習慣を改善(塩分を摂りすぎない食事、医師のアドバイスによる運動など)し、インフルエンザや肺炎球菌などのワクチン接種をして感染症にかからないようにして、きちんと受診すると良いです。

薬に興味を持つことが大切!

今回は薬のはなしで、わかりにくいことが多かったのではないでしょうか。
あなたが服用している薬に興味を持つこと、その薬を理解して納得して服用することは心不全の治療に限らず、薬物治療では非常に大切なことです。
心不全の薬についてもっと知りたいとき、わからないことがあるときは、何度でも薬剤師に相談すると良いです。当然、医師に相談されても良いです。

【参考資料】
<書籍・文献>

  • 心不全療養指導士認定試験ガイドブック改訂第2版,日本循環器学会,南山堂,2022年
  • 急性・慢性心不全診療ガイドライン(2017年改訂版),日本循環器学会
  • 心不全手帳(第3版),日本心不全学会,2022年
  • 沢井製薬提供冊子:多職種で取り組む心不全の診療,2022年

<ホームページ>

  • NHK 健康Ch,心不全の薬による治療,2021年10月29日更新
  • NHK 健康CH,心不全とは?症状と主な原因(狭心症、高血圧など)入院1年以内に2割が死亡,2021年5月16日更新

年末年始休診のお知らせ

2022/12/23 お知らせ

こんにちは。みわ記念病院から年末年始休診のご案内です。

令和4年12月29日(木)まで通常通り診療
令和4年12月30日(金)~令和5年1月3日(火)の間、休診
令和4年1月4日(水)より通常通り診療

ご迷惑をおかけいたしますが、ご協力をよろしくお願いいたします。

心不全通信 No.9「人生会議と心不全の緩和ケア」


心不全通信 No.9 2022年10月号を公開しました。

心不全は「心臓が悪いために、息切れやむくみが起こり、だんだん悪くなって、生命を縮める病気」です。坂道や階段での息切れは、年齢のせいではなく心不全かもしれません。
今回は、「人生会議と心不全の緩和ケア」について説明します。

  • 心不全とは
  • 誰にでも訪れる時のために
  • 人生会議とは
  • あなたの大切な人の心の負担を軽くする
  • 話さなくてもよい
  • 人生会議と緩和ケア
  • 緩和ケアは終末期に始めるものではない
  • “心不全”と“がん”の緩和ケアの違い
  • 心不全の緩和ケアの実際
  • 呼吸困難(息苦しさ)
  • 疼痛(痛み)
  • 倦怠感
  • 抑うつ・不安
  • せん妄
  • 死前喘鳴(のどがゴロゴロ鳴る)
  • 終末期の苦痛

心不全通信 No.9 2022年10月号

心不全とは

心不全は「心臓が悪いために、息切れやむくみが起こり、だんだん悪くなって、生命を縮める病気」です。
坂道や階段での息切れは、年齢のせいではなく心不全かもしれません。

今回は、「人生会議と心不全の緩和ケア」について説明します。

誰にでも訪れる時のために

心不全に限らず医療は絶えず進歩しており、心不全においても新しい治療法や薬物療法も行われるようになっています。
ですが、心不全を完全に治すことはできておらず、だんだんに悪くなって、誰にも訪れる最期の時を迎えます。

・・・そのような時のために『人生会議』はあります。

人生会議とは

「人生会議」とは、アドバンス・ケア・プランニング(Advance Care Planning)の愛称で、あなたの大切にしていることや望み、どのような医療やケアを望んでいるかについて、自ら考え、あなたの信頼する人たちと話し合うことです。
「会議」といっても日時を決めて開く必要はなく、日常生活の中で、自分の大切にしていることや望みを話してみることで良いのです。
以前言ったことと違っても良いのです。人の気持ちや考えは変わるものです。
繰り返し繰り返し、話をすることで、あなたが大切にしていることや望みがあなたの信頼する人たちに必ず伝わります。

あなたの大切な人の心の負担を軽くする

命の危険が迫った状態になると、多くの場合に、これからの医療やケアなどについて自分で決めたり、人に伝えたりすることができなくなります。
あなたがそのような状況になった時、家族などあなたの信頼できる人が「あなたなら、たぶん、こう考えるだろう」とあなたの気持ちを想像しながら、医療やケアについて話合いをすることになります。
あなたの信頼できる人が、あなたの価値観や気持ちをよく知っていることは、その判断の重要な助けとなります。

さらに、人生会議を重ねて、あなたの心の声を伝えておくことは、あなたが自分の気持ちを話せなくなった「もしのとき」に、あなたの大切な人の心の負担を軽くするでしょう。

話さなくてもよい

残された時間のことを考えたくなければ、人生会議はしなくて良いです。
考えてみようかなと思えるようになるまで待てば良いのです。

人生会議はしたいけど、そのきっかけがないのであれば、医療ソーシャルワーカーにご相談ください。
お話を聞かせていただきます。
医療ソーシャルワーカーは人生会議のきっかけづくりのお手伝いをします。

人生会議と緩和ケア

人生会議をする前に、緩和ケアについて知っておいてください。
緩和ケアは、あなたが苦しんでいる症状(呼吸困難や倦怠感、痛みなど)の緩和を優先して治療・ケアを行うことで、病気の治療をやめることではありません。

緩和ケアは終末期に始めるものではない

緩和ケアは終末期になって始めるのではなく、病気になった当初から始めるほうがよく、病気の進行に伴い緩和ケアの優先度合いを増してゆくことで、あなたや家族の生活の質(QOL)の低下を防ぐことができると考えられています。

“心不全”と“がん”の緩和ケアの違い

がんの緩和ケアと心不全の緩和ケアは、その考え方が違います。

  • がんの緩和ケアでは終末期に近づくにつれて効果の期待できない抗がん剤治療などを差し控えて患者さんの生活の質(QOL)の低下を防ぐことを優先します。
  • 心不全の緩和ケアでは心不全の治療が症状の緩和に有効なので、心不全の治療薬を中止すると症状を悪化させることになります。

そのため、心不全の緩和ケアでは多くの場合で心不全の治療を可能な限り継続します。

心不全の緩和ケアの実際

心不全の終末期が近づくにつれて、呼吸困難、倦怠感、疼痛(痛み)、抑うつなどの症状がでてきます。
このような症状に対して、心不全の治療自体が有効なことが多く、心不全の治療をできる限り継続しながら、つぎのような治療・ケアを同時に検討してゆきます。

なお、緩和のための治療・ケアに用いる薬のほとんどが承認された薬の使用方法ではありませんが、一般的に安全に行われている使用方法でもあります。

呼吸困難(息苦しさ)

呼吸困難は心不全の症状の1つで、心不全の治療が呼吸困難に有効ですが、末期心不全では心不全の薬物治療のみでは呼吸困難の症状をコントロールできなくなることがあります。
呼吸困難に対して、酸素投与や患者さんが安楽に感じる身体の姿勢(ポジショニング)、扇風機などでの顔への送風などが有効なこともあります。

薬物治療としてはモルヒネなどのオピオイド系薬剤を使用して、息苦しさを感じにくくします。
このとき使用するモルヒネの量は、がんの痛みの時に使用する量より少ない量です。

疼痛(痛み)

心不全の進行に伴い、様々な痛み(狭心痛、関節痛、ピリピリとした痛みを感じる神経障害性疼痛など)を感じることが多くなります。
その痛みは、心不全そのものによる症状であったり、併存症や精神的なストレスが原因とされていますが、原因がわからない場合も多いです。
いわゆる“痛み止め薬”(非ステロイド性抗炎症薬:ロキソプロフェンなど)は終末期の心不全では腎機能障害の悪化や体液貯留を増悪させることがあるので、できるだけ使用を控えます。

鎮痛薬としてはアセトアミノフェン製剤を使用して、神経障害性疼痛には鎮痛補助薬(プレガバリン、ミロガバリンなど)を併用します。
アセトアミノフェン製剤を使用しても疼痛コントロールが困難な場合には、オピオイド系薬剤(モルヒネなど)を使用します。

倦怠感

心不全による心拍出の低下により倦怠感がでることが多く、薬物療法で対処できないことが多いです。
電解質異常、心不全の治療薬(利尿薬、β遮断薬など)の過量投与、貧血、抑うつ状態、甲状腺機能低下、睡眠時無呼吸、潜在性感染症などが倦怠感の原因であることもあります。
電解質の1 つであるカリウムが不足しておればカリウムの補充、利尿薬の過剰であれば利尿薬の減量中止、β 遮断薬の過量であれば減量中止、輸血、抗うつ薬の投与などを検討します。

がんの倦怠感の時に一般的に使用されるステロイド製剤は、浮腫を増悪させたりせん妄の原因となることがあるので、心不全の倦怠感でのステロイド製剤の使用は薦められません。
軽度の有酸素運動やエネルギー温存療法(倦怠感が強い時間帯と弱い時間帯の症状の程度に合わせて、倦怠感が弱い時間帯に、一日の中で優先度が高いと思う活動をし、倦怠感が強いときには、身の回りのことを身近な人や家族に手伝ってもらうこと。)が有効なこともあります。

抑うつ・不安

心不全に伴う抑うつは生活の質QOL の低下だけでなく、予後不良の原因にもなります。
薬物治療には、抑うつの時に一般的に使用される抗うつ薬を使用します。
不安症状には抗不安薬の使用や抗うつ薬を併用することもあります。
心臓リハビリテーションやカウンセリングなどが有効なこともあります。

せん妄

高齢者の心不全の終末期にはせん妄(意識が混乱することで、つじつまが合わず、いつもと違う行動をとるようになること。多くの場合は自然にウトウトするようになりますが、時に興奮状態になることがあります。)が起こりやすいです。
心不全により脳に供給される血液の量の低下や肺障害、電解質異常、ポリファーマシー(多くの薬剤の服用による有害事象)などが原因となっていることがあります。

せん妄は認知症や抑うつ症状と似ているのですが、せん妄は夜間に増悪する傾向があります。
せん妄は療養している環境や薬剤により起こることもあります。
そのため、せん妄を起こしうる環境を改善したり、せん妄を起こしうる薬剤(抗ヒスタミン薬、降圧薬、β遮断薬、抗不整脈薬、睡眠薬、抗不安薬など)を見直します。
それでもせん妄の興奮状態が改善しない時は、抗精神病薬を使用することもあります。

死前喘鳴(のどがゴロゴロ鳴る)

死を目前に控えた段階では、意識が混濁し、せん妄や死前喘鳴(のどがゴロゴロ鳴る)を認めることが多いです。
死前喘鳴は唾液などがのどに絡むことで起こります。

身体の位置の工夫(上半身を少し上げて顔をしっかりと横に向ける)や点滴をしている場合にはその量を減らしたり止めたりします。
唾液を減らす薬を用いたり、痰を吸引すること(吸痰)もあります。
ただ死前喘鳴は周りの人が感じるほど本人には苦痛でないとされており、本人には吸痰が苦痛になるとの考えもあります。

終末期の苦痛

ほかの方法で緩和できない耐え難い苦痛がある患者さんでは、症状緩和のための鎮静を検討することもあります。
鎮静をおこなったからといって全く会話ができなくなるわけではなく、会話ができる程度に鎮静することもできます。(調節型鎮静)
調節型鎮静で患者さんの苦痛が十分に取り除けない時は、持続的な深い鎮静をおこなうこともあります。
いずれにしても、薬の投与量を変えることで、患者さんが一番満足できる鎮静の程度に調節できます。

次回は、『心不全の薬物療法』について説明します。

【参考資料】
<書籍・文献>

  • 月刊薬事,Vol.64,No.2,2022年
  • 月刊薬事,Vol.62,N0.14,2020年
  • 心不全療養指導士認定試験ガイドブック,日本循環器学会,南山堂,2020年
  • 三浦久幸,在宅における非がん性呼吸器疾患・呼吸器症状の緩和ケア指針,2022年
  • 循環器疾患における緩和ケアについての提言,日本循環器学会,日本心不全学会,2021年
  • 心不全緩和ケアの薬剤業務に関する進め方,日本病院薬剤師会,2021年
  • 非がん性呼吸器疾患緩和ケア指針2021 年,日本呼吸器学会・日本呼吸ケアリハビリテーション学会,2021年
  • 北野大輔:心不全に対する緩和医療,日大医誌,Vol.79,No.4,2020年
  • 安斉俊久:心不全の緩和ケア療法,現代医学,Vol.67,No.1,2020年
  • 大石醒悟:心不全治療と併存する緩和ケア,日内雑誌,No.109,2020年
  • 木澤義之:人生会議(ACP:アドバンス・ケア・プランニング)本人の意向に沿った人生の最終段階の医療・ケアを実践するために,ファルマシア,Vol.56,No.2,2020年
  • <ホームページ>

    • 日本緩和医療学会
    • がん情報サービス(国立研究開発法人国立がん研究センター)
    • 人生会議してみませんか(厚生労働省)
    • 緩和ケア普及のための地域プロジェクトOPTIM

外来休診のお知らせ

2022/08/30 お知らせ

院内職員の感染と濃厚接触者多発のため、8/30(火)~9/3(土)の期間、外来を休診いたします。

患者さんやご家族の皆様には大変ご迷惑をおかけしますが、何卒ご理解いただきますようお願い申し上げます。

心不全通信 No.8「心不全の人の食事」


心不全通信 No.8 2022年6月号を公開しました。

心不全は「心臓が悪いために、息切れやむくみが起こり、だんだん悪くなって、生命を縮める病気」です。坂道や階段での息切れは、年齢のせいではなく心不全かもしれません。
今回は、「心不全の人の食事」について説明します。

  • 心不全とは
  • 心臓に良い食事パターン
  • 食事バランスガイドを活用しましょう
  • 朝食を摂り、遅い時間の夕食は避けましょう
  • 心不全の食事療法の目標
  • 食品の心臓への影響

心不全通信 No.8 2022年6月号

心不全とは

心不全は「心臓が悪いために、息切れやむくみが起こり、だんだん悪くなって、生命を縮める病気」です。坂道や階段での息切れは、年齢のせいではなく心不全かもしれません。

今回は、「心不全の人の食事」について説明します。

心臓に良い食事パターン

日常的な食事は種々の食品の組み合わせなので、個別の栄養素だけでなく、摂取する食品の組み合わせ(食事パターン)にも配慮することが大切です。
心血管イベントの予防に有用な食事パターンには、地中海沿岸諸国の地中海食や米国国立衛生研究所が推奨するDASH食などがあり、日本食パターンも心血管死のリスクを低下させます。
和食はユネスコ無形文化財に登録され、健康食としても世界的に注目されていますので、減塩を加味した日本食パターンの食事もお勧めです。

地中海食 魚,野菜,果物,ワイン,全粒穀物,オリーブ油,ナッツを多く含む食事
DASH食 野菜,果物,低脂肪の乳製品を多く摂り,肉類,菓子類,砂糖を含むソフトドリンクを減らす食事
日本食パターン
The Japan Diet
肉,油脂の摂取が少なく,大豆,魚,野菜,海藻,キノコ,果物などの摂取が多い食事

食事バランスガイドを活用しましょう。

栄養のバランスの良い食事は、心不全などの心疾患や糖尿病、高血圧、脂質異常症、脳血管障害、がんなどの生活習慣病の予防や悪化予防になります。
厚生労働省と農林水産省が発表した「食事バランスガイド」を参考にすると簡単に日本食パターンの栄養のバランスの良い食事を実践できます。
この「食事バランスガイド」は、食品を主食、副食、主菜、牛乳・乳製品、果物の5 つに分け、それぞれを1 日にどれくらい食べたら良いかを示しています。

朝食を摂り、遅い時間の夕食は避けましょう。

朝食を抜く人は肥満、糖尿病の発症、心血管イベントが増し、朝食を抜くことに加え遅い時間に夕食を摂る人はメタボリックシンドロームのリスクが高まります。

心不全の食事療法の目標

過不足のない適切な栄養やエネルギー摂取と健康的な体重の維持により、心不全が増悪しないようにすることが、心不全の食事療法の目標となります。
ただし、心不全は悪くなったり良くなったりを繰り返して次第に心機能や身体機能も低下し、栄養状態も悪化して、終末期に近づいて行きますので、その時期により心不全の食事療法は、その目標・注意点などが異なってきます。

塩分

塩分の過剰摂取は血圧を上昇させ心血管病のリスクを高め、体液貯留の原因となるので、1日6g未満にすることが推奨されています。
特に心不全では塩分の摂りすぎが心不全悪化の原因となることがあるので、塩分の過剰摂取にならないようにすることが重要です。
ただし、高齢者で塩分制限によって食事が味気なくなり食欲がなくなるようであれば、エネルギー確保を優先し、塩分制限にこだわるべきではないとも考えられており、このような時は主治医に確認してください。

水分制限

心不全での水分制限について明確な指標はないので、医師の指示がない限り、過剰な摂取を控えることで良いです。
1日に必要な水分量は、食事中の水分も含めて30~40mL/kg/日ですが、これは年齢によって異なり、75歳以上では少なくとも25mL/kg/日は摂るべきとされています。
高齢者では加齢とともに口渇中枢の働きが低下するので、環境や体調によって水分摂取を勧めるなどの支援も必要です。

カロリー(エネルギー)

カロリーの摂りすぎは、体重の増加につながります。
WHO はBMI が25kg/m2 以上を過体重、30kg/m2 以上を肥満としていますが、日本人ではBMIが25kg/m2を超えたあたりから耐糖能障害、脂質異常症、高血圧などが増えてくるので、25kg/m2以上を肥満としています。
心臓のポンプ機能が保たれた心不全は肥満の人に多いという研究もありますが、BMI が18.5kg/m2 未満のやせた人は脳梗塞、脳出血のリスクが高くなるので痩せすぎにも注意が必要です。
成人以降の体重増加も冠動脈疾患のリスクとなります。
20 歳代にBMI が21.7kg/m2 未満であった人が、その後10kg以上体重が増加すると冠動脈疾患のリスクが2 倍に増えるので、成人早期から普通体重(18.5~24.9kg/m2)を維持するようにするべきです。

タンパク質

中等症以上の腎機能障害がなければ、慢性心不全などでは1.2~1.5g/kg/日のタンパク質を摂取すると良いでしょう。
中等症以上の腎機能障害がある時は、サルコペニア(高齢期にみられる骨格筋量の低下と筋力や身体機能の低下した状態)やフレイル(年をとって体や心のはたらき、社会的なつながりが弱くなった状態)にならないように30kcal/kg/日以上の十分なエネルギーと0.6~0.8g/kg/日のタンパク質を摂取すると良いでしょう。

脂質

ヒトは脂質、炭水化物、タンパク質からエネルギーと摂っており、脂質から得るエネルギーの割合を「脂肪エネルギー比率」といいます。
脂肪エネルギー比率が高くなると心臓病、メタボリックシンドローム、肥満のリスクが高くなります。
脂質はエネルギー源であると同時に細胞膜を作る必須の成分でもあり、脂質をつくる脂肪酸の種類によって身体への影響は大きく異なります。

飽和脂肪酸

飽和脂肪酸は、肉などの動物性脂肪や乳製品、パーム油などの植物油脂に多く含まれています。
動脈硬化への影響は少ないとの研究もあるのですが、LDL コレステロールを増加させ心筋梗塞を起こしやすくするので、過剰な摂取は控えるべきでしょう。
しかし、極端に減らすと脳出血が起こりやすくなるので、極端に摂取を減らすべきではありません。

不飽和脂肪酸(一価不飽和脂肪酸)

オレイン酸が代表的なもので、動物性脂肪やオリーブ油などに多く含まれています。
飽和脂肪酸よりLDL コレステロールを上昇させにくいので、心血管予防効果が“ある”という研究と“ない”という研究があります。
オリーブ油から一価不飽和脂肪酸を摂った場合には心血管死が減少したが、動物や植物から摂った場合には効果がなかったという研究もありますので、どのような食品から一価不飽和脂肪酸を摂取するかも重要なようです。

不飽和脂肪酸(多価不飽和脂肪酸 – ω3系不飽和脂肪酸)

ω3 系不飽和脂肪酸には、食用油由来のα-リノレン酸と魚介類由来のEPA、DHA があります。
EPA は二次予防効果(冠動脈疾患にかかったことがある人が再び冠動脈疾患に罹らないようにする効果)があるとされていますが、これらの報告は古い研究が多く、近年実施された研究では有効性が示されておらず,効果は限定的かもしれません。
また冠動脈疾患にかかったことがない人でも冠動脈イベント発生を抑制できるどうかについてはよくわかっていません。

不飽和脂肪酸(多価不飽和脂肪酸 – ω6系不飽和脂肪酸)

リノール酸が代表的なもので、大豆油やコーン油などの植物油に多く含まれています。
リノール酸は心血管疾患発症の予防に有用なのですが、ω6 系不飽和脂肪酸は体内で炎症を引き起こす物質(プロスタグランジン、ロイコトリエンなど)に変化して、冠動脈疾患を増やす可能性もありますので、過剰な摂取はさけるべきでしょう。

不飽和脂肪酸(多価不飽和脂肪酸 – トランス脂肪酸)

トランス脂肪酸を多量に摂取すると、HDL コレステロールが減少し、LDL コレステロールが増加して冠動脈疾患のリスクが高まるので、WHO はトランス脂肪酸の摂取量を総エネルギー摂取量の1%未満とするよう勧告しています。
この勧告に従うと、日本人では1 日あたり約2g未満となりますが、日本人が摂取しているトランス脂肪酸の量は0.9g 程度であり、健康への影響は少ないと考えられています。
近年、脂質を摂りすぎている人が増えてきています。
脂質エネルギー比率が高くなるとトランス脂肪酸の摂取も増える可能性がありますので、脂質の摂りすぎにならにようにしましょう。

食品の心臓への影響

魚は積極的に摂取するべきで、ω3 系不飽和脂肪酸のエイコサペンタエン酸(EPA)やドコサヘキサエン酸(DHA)を多く含む青魚などは、冠動脈疾患の予防に有用です。
週に8 回魚を摂取する人は、週に1 回だけの人と比べ、冠動脈疾患のリスクが37%少ないことやω3 系不飽和脂肪酸の摂取量が多いほど心血管死亡率が少なくなるとの研究があります。

赤身肉

肉の過剰摂取は心血管疾患のリスクになると言われていましたが、日本人の肉の摂取量程度(100 g/日未満)では心血管死は増加しないと考えられるようになっています。
ただし、動物性脂肪(飽和脂肪酸)の過剰摂取はコレステロールを上昇させる要因となるので、脂肪が少ない赤身肉を選ぶほうが良いです。
また、過度に肉食を控え飽和脂肪酸の摂取量が少なくなりすぎると脳血管障害のリスクが増えるので、適度な摂取が良いです。

加工肉

ハムやソーセージなどの加工肉を1日75g以上(ソーセージ1本15g として5本以上、スライスハム1枚10gとして7枚以上)摂取する人は、1日25g未満の人と比べて、心不全発症リスクが1.28倍、心不全死亡リスクが2.43倍増えるとの研究がありますので、過剰摂取には気をつけましょう。

野菜、果物

野菜、果物はビタミン、ミネラル、繊維質を豊富に含み、心血管死の減少に有用との報告があり、野菜、果物が一品食卓に増えることで心血管死のリスク低下につながります。

全粒穀物

全粒穀物(糠となる部位を除去していない穀物やその製品)は、食物繊維、ビタミン、ミネラルなどを多く含み、冠動脈疾患の予防や心血管死のリスク減少効果があります。

ナッツ

ナッツは不飽和脂肪酸、繊維質、ビタミン、ミネラルを豊富に含み、冠動脈疾患の発症リスクを減少させるとの研究があります。

アルコール

アルコールは心毒性を有することから、過剰な摂取はアルコール性心筋症のリスクとなりますが、軽度のアルコール摂取は心不全発症のリスクを低下させます。
心血管予防のために飲酒習慣のない人が飲酒する必要はありませんが、飲酒習慣がある人では、純アルコールで1日30g未満の摂取にとどめると良いでしょう。

清涼飲料水(加糖飲料)

清涼飲料水や加糖飲料の多量摂取は、過剰エネルギーにつながり、肥満、糖尿病のリスクを高めます。
カロリーゼロを謳った人工甘味料を使用した清涼飲料水も糖尿病の発症に関与する可能性があるので、注意が必要です。

次回は、「人生会議と心不全の緩和ケア」について説明します。

【参考資料】

  • 心不全療養指導士認定試験ガイドブック,日本循環器学会,南江堂、2020年
  • 心不全患者における栄養評価・管理に関するステートメント,日本心不全学会ガイドライン委員会,2018年
  • 農林水産省ホームページ,トランス脂肪酸について
  • 厚生労働省ホームページ,「食事バランスガイド」について
  • 日本サルコペニア・フレイル学会ホームページ
  • 食べて元気にフレイル予防,厚生労働省 令和元年度食事摂取基準を活用した高齢者のフレイル予防事業

心不全通信 No.7「心不全でも運動は大切!」



心不全通信 No7 2022年2月号を公開しました。

心不全とは

心不全は「心臓が悪いために、息切れやむくみが起こり、だんだん悪くなって、生命を縮める病気」です。
坂道や階段での息切れは、年齢のせいではなく心不全かもしれません。
今回は、「心不全でも運動は大切!」について説明します。

  • 心不全とは
  • 心不全は予防できることもある
  • 心不全でも運動は大切
  • 運動耐容能に基づいた運動処方
  • 運動耐容能の評価
  • 心不全の運動療法
  • 心不全の運動療法を安全に行うために
  • 記録は大切

心不全通信 No.7 2022年2月号

心不全は予防できることもある

心不全を引き起こす病気や食事・運動などの生活習慣に適切に対応することで、心不全を予防し、悪化・再発を回避することができる場合があります。
たとえば、高血圧を治療すると心不全の発症を抑制し生命予後を伸ばすことができます。
冠動脈疾患や肥満・糖尿病の適切な生活習慣の改善や治療は心不全の発症予防と生命予後の改善のために大切です。
禁煙は心不全の死亡率や再入院率を軽減し、飲酒者の適量の飲酒習慣は心不全の発症を抑制するとのデータがあります。
とはいえ、飲酒習慣がない人が無理に飲酒する必要はなく、飲みすぎは心不全だけでなく身体にとっても良くないです。
また、適度な身体活動や運動習慣は心不全の発症を抑制します。

心不全でも運動は大切

以前は、心臓に病気がある人は絶対安静が基本でしたが、過剰な安静は身体機能の低下をもたらし寿命を短くすることが明らかになったので、現在では、適度な運動をすることが勧められています。

運動耐容能に基づいた運動処方

運動療法は、運動の種類、運動の強さ、運動の時間、運動の回数などによって心臓への負担が異なります。
そのため、心不全の運動療法を安全に実施するには、心不全の状態に応じた個別の適切な運動、すなわち、その人の運動耐容能に応じた運動を「運動処方」に基づいて実施すべきです。
自己判断による不適切な運動は危険な場合もあります。

運動耐容能の評価

心不全の人の運動耐容能を評価する方法には、心肺運動負荷試験と6分間歩行試験などがあります。

心肺運動負荷試験

自転車エルゴメーターやトレッドミルなどを用いて運動しながら同時に呼気ガス分析を行って運動耐容能を評価する方法で、特別な装置が必要です。
当院で実施することはできませんが、この検査が必要な方には、川崎医科大学循環器内科に依頼して実施しています。

6 分間歩行試験

特別な設備を必要としない評価方法です。
最大に努力して6 分間で歩行できる距離を測定する方法です。
当院でも実施しています。

心不全の運動療法

心不全の運動療法(心臓リハビリテーション)は、心不全の悪化による再入院を防ぐことを目的に行います。
心不全だけに限りませんが、運動療法はウォームアップ、主運動、クールダウンから構成されます。

ウォームアップ(準備体操)

身体を安静から運動へ移行させる準備で、骨格筋を収縮・進展させ、血液循環を促します。
ウォームアップで実施されるストレッチングは、筋肉・靱帯・腱などやそれらを互いに結合する組織の伸展性を高め、関節の可動域を広げます。
ストレッチングは、静的なストレッチングと動的なストレッチングを組み合わせることが好ましく、静的なストレッチングは「気持ち良い」と感じるくらいの強さで、ひとつの動作を30秒程度実施することが望ましいです。

主運動 有酸素運動とレジスタンス運動

心不全の運動療法では、有酸素運動とレジスタンス運動を併用して行います。

有酸素運動

心肺運動負荷試験のデータに基づいて行うのが好ましいです。
ウォーキング、自転車エルゴメーター、軽いエアロビクスなどが勧められます。
ジョギング、スイミング、テンポの速いエアロビクスダンスなどは好ましくないです。
5~10分程度の短い時間から開始し、徐々に目標の運動時間まで少しずつ増やし、安定期にある心不全では1日20~60分まで運動時間を増やします。
頻度は、心臓機能の程度により異なり、週3~5回程度が好ましいとされています。

レジスタンス運動

一般的には「ややきつい」と感じるレベルで行います。
軽量のダンベルを利用したものや特別な器械や器具を必要としない自重負荷による方法などがあります。
低強度の運動から始め、心不全の徴候がなければ徐々に適切な運動強度まで少しずつ増します。
息こらえをしながら行うと過度な血圧上昇を引き起こすことがあるので、声を出して数を数えながら実施するなど息をとめないように行うのがコツです。
毎日行わず、週2~3回程度、1日おき程度での実施が好ましいとされています。

クールダウン(整理体操)

運動終了後の過度の血圧低下や目眩などの自覚症状の出現を回避するために必要です。
低負荷の運動やストレッチングなどの整理体操により、徐々に安静時の心拍数や血圧に戻すために行う運動です。

心不全の運動療法を安全に行うために

運動してはいけない時

息切れが悪化している、安静にしていても息が切れる、体重やむくみが増している、動悸、倦怠感、めまい、食欲不振があるなど心不全の悪化を疑う自覚症状や身体所見があるときは運動療法をしてはいけません。

運動は家族・友人と一緒に行う

高齢者の心不全では、運動耐容能が低く、持続的な有酸素運動が困難な場合が多いので、有酸素運動よりレジスタンス運動の重要性が高くなります。
また、運動療法中の心血管イベント発生リスクが若い人より高いので、はじめは病院や施設などのリハビリスタッフがいる環境で行います。
安全に運動療法を行うことができると確認された人は、自宅でも運動療法(運動処方に基づくことが望ましい)を行います。
その場合でも、心血管イベントの発生に備えて、家族や友人などと一緒に行う方がより好ましいです。

運動は食後2時間程度経過してから行う

食事直後は、食物の消化・吸収のため腸管の血液の需要が増加するので、食事直後に運動すると腸管や骨格筋への血液の需要に対する血液の供給が不足して心不全の徴候の出現や心不全の増悪を招く危険性があります。
そのため、食後2時間程度経過してからの実施が好ましいです。

ウォームアップとクールダウンは必ず行う

安全に心不全の運動療法を実施すために、運動を始める時にはウォームアップを、運動を終わる時にはクールダウンを必ず行います。

安静時の状態に戻らない時は主治医に相談

運動療法終了後も血圧や脈拍数が安静時の値まで改善しない、疲労感や呼吸困難感が残っている場合は、心不全の増悪や運動が過度になっている可能性がありますので、主治医にご相談ください。

気温や湿度にあった服装

運動を実施する際には気温や湿度などの環境に合わせた服装で運動します。
特に、気温が高い夏季では発汗の透過性を保てるものが、気温が低い冬季では保温にも配慮した服装が好ましいです。

脱水にならないように水分摂取する

発汗による脱水を回避するために、水分摂取をこまめに行います。

記録は大切

安全に運動療法を行うために、心拍数、血圧、脈拍などを計測しながら行うようにします。
また、心不全の増悪の徴候を早期に発見するために、脈拍数、血圧、体重、食欲や疲労感などの自覚症状の推移の記録をつけることが好ましいです。
記録する方法には、心不全手帳などに記入する方法以外に、スマートフォンを利用した簡便な方法もあります。
興味のある方は、岡本医師(心不全外来担当)に、ご相談ください。

【参考資料】

  • 心血管疾患におけるリハビリテーションに関するガイドライン(2021年改訂版):日本循環器学会
  • 急性・慢性心不全診療ガイドライン(2017年改訂版):日本循環器学会
  • 心不全療養指導士認定試験ガイドブック:日本循環器学会、南江堂、2020年
  • 心不全の心臓リハビリテーション改訂版:ジャパンハートクラブ編
  • 心不全手帳(第2版):日本心臓財団

ホームページ

  • 川崎医科大学循環器内科
  • 日本心臓財団
  • SaluDi:沢井製薬

年末年始休診のお知らせ

2021/12/01 お知らせ

こんにちは。みわ記念病院から年末年始休診のご案内です。

令和3年12月27日(月)まで通常通り診療

午前 午後
12月 28日(火) 診療 休診
  29日(水) 診療 診療
  30日(木) 休診 休診
  31日(金) 休診 休診
1月 1日(土) 休診 休診
  2日(日) 休診 休診
  3日(月) 休診 休診
  4日(火) 診療 休診

令和4年1月5日(水)より通常通り診療

ご迷惑をおかけいたしますが、ご協力をよろしくお願いいたします。

心不全通信 No.6「心不全の原因となる不整脈に対する非薬物療法」



心不全通信 No6 2021年10月号を公開しました。

心不全とは

心不全は「心臓が悪いために、息切れやむくみが起こり、だんだん悪くなって、生命を縮める病気」です。
坂道や階段での息切れは、年齢のせいではなく心不全かもしれません。
今回は、心不全の原因となる不整脈に対する非薬物療法について説明します。

  • 心不全とは
  • 心臓が拍動するしくみ
  • 不整脈とは
  • 期外収縮(脈がとぶ)

心不全通信 No.6 2021年10月号

心臓が拍動するしくみ

心臓は1日に約10万回も拍動してポンプ機能をはたしています。
心臓のなかを電気信号がタイミングよく、一方通行で伝わることによって、心臓は規則正しく拍動し、それが“脈”として観察されます。
この電気信号は、心房にある洞結節でつくられ、心房を収縮させた後、房室結節などの刺激伝送系(心臓にある電線のようなシステム:洞結節→房室結節→ヒス束→右脚・左脚→プルキンエ線維)によりタイミングよく心房から心室へと伝えられて、心臓は拍動します。

不整脈とは

不整脈は、心臓の拍動(収縮と弛緩の繰り返し)が不規則だったり、遅くなったり、速くなったりすることよって、脈が不規則になったり(期外収縮)、遅くなったり(徐脈)、速くなったり(頻脈)するものです。
脈は、息を吸うと速くなり、吐くと遅くなり、運動や体温の上昇で速くなりますが、これは生理的な正常な反応で、不整脈ではありません。

期外収縮(脈がとぶ)

期外収縮は、もっとも多い不整脈で、30歳を過ぎるとほとんどの人にみられ、年齢に従って増えてきます。
期外収縮には、心房性期外収縮(電気信号が洞結節以外の心房から発生)と心室性期外収縮(電気信号が心室から発生)があります。
いずれの期外収縮も脈が1回とんだように感じます。
これは、通常より早く心臓が収縮することで、押し出される1回分の血液の量が少なくなり、脈として感じることができなかったためです。
期外収縮があっても、多くの場合で何も症状はありませんが、喉や胸の不快感、動悸、キュッとしたごく短時間の胸の痛みを感じることもあり、連続して起こると一時的に血圧が下がって、めまいや動悸を感じることもあります。
期外収縮は自律神経のバランスが崩れた時に起こることが多く、睡眠不足、過労、ストレス、アルコールやカフェイン飲料の摂りすぎなどが誘因となり、年齢や体質的な理由で起こります。
多くの場合で病気とは関係ありませんが、期外収縮から危険な不整脈になる可能性がないか調べておいた方がよいでしょう。

徐脈(脈が遅い)

脈拍数が50 回/分より少ないのが徐脈です。
主な原因は、「洞結節」や「房室結節」に起こった電気信号の異常です。
電気信号がつくられなかったり、電気信号が途中でストップしたりするために起こります。
加齢や動脈硬化の進行している人で起こりやすく、甲状腺ホルモンの分泌低下や薬の副作用で起こることもあります。
直接的に生命に関わることはありませんが、息切れやだるさ、足のむくみなどの症状があり、脳への血流が不足するとめまいや失神を起こすこともあります。

洞不全症候群

右心房にある洞結節に異常が生じ、心臓を動かす電気信号が極端に少なくなったり、発生しなくなったりした状態です。

房室ブロック

房室結節に異常が生じて心室に電気信号がうまく伝わらなくなった状態です。
房室ブロックでは非常に不規則な脈になり、失神や心不全、突然死を起こすこともあります。

徐脈の治療

多くの場合で生命に関わることはないので、自覚症状がなければ経過観察のみで特に治療をしないことが多いです。
徐脈により失神を起こす場合や息切れや倦怠感のために日常生活に強く支障がある場合には、ペースメーカーが必要となることもあります。

ペースメーカー

ペースメーカーは鎖骨下あたりの胸部皮下に植え込んだ本体と心臓内に留置したリード線からなり、本体で電気刺激を一定リズムで発生させ、リード線を通して心臓に伝えて心臓を拍動させます。
以前はできなかったMRI撮影に対応したものやリード線がない直接心臓内に植え込むカプセル型のリードレスペースメーカーもあります。
手術は2~3時間程度で、1週間程度の入院が必要です。
植え込み後は3〜6ヶ月に1回外来でチェックをしますが、遠隔モニタリングで自宅でのチェックも可能です。
電池寿命は10 年程度で、電池がなくなると本体を交換します。

心臓再同期療法(CRT)

心不全や心筋梗塞では、しばしば心臓内を電気信号がタイミングよく伝わらないために心臓の収縮タイミングのズレが起こり心臓のポンプ機能が低下します。
CRT は心臓の収縮のタイミングを修正(再同期)することでポンプ機能を改善させる重症の心不全専用のペースメーカーです。
ペースメーカーと同様の手術で、本体の植え込みとリード線を留置します。
心不全が安定している場合で、7〜10日程度の入院が必要です。
電池の寿命はCRT の作動状況により異なり、2~8年程度です。

頻脈(脈が速い)

脈拍数が100回/分より多いのが頻脈です。
電気信号が異常に早くつくられたり、異常な電気信号の伝達路ができたりして電気信号が空回りすることで起こります。
頻脈には「頻拍」と「細動」があり、電気信号の発生が100回/分以上のものが頻拍、250回/分以上のものが細動です。
細動では、電気信号が速すぎて心臓が対応しきれず、拍動が不規則で弱くなります。
心房に細動が起こるのが「心房細動」、心室に細動が起こるのが「心室細動」です。
心房細動は脳梗塞を、心室細動は突然死を起こす危険性があり、もっとも危険なタイプの不整脈です。

心房細動

心臓は洞結節から出る電気信号により60~100回/分程度のリズムで動いていますが、心房細動では、複数の電気信号が心房内を走り回って、400~600回/分の速さで心房が細かく震えるような状態になっています。
約半数の方には症状がなく、脈の乱れ、動悸、めまいなどを感じることもあります。
直接的に生命に関わることはありませんが、心房細動がある人は、脳梗塞が5倍程度、心不全が4倍程度、心房細動がない人より起こりやすくなります。

心房細動の治療

薬物療法

抗不整脈薬により症状の緩和はある程度できますが、心房で起こる異常な電気信号の発生を抑え完全に心房細動を予防することはできません。
薬の種類により、心機能の低下、徐脈、血圧低下などの副作用があり、心不全を悪化させることもあります。

肺静脈隔離術

心房細動の原因となる異常な電気信号は主に肺静脈あたりから起こります。
異常な電気信号が心臓全体に伝わらないように、電気信号の通路を遮断するのが肺静脈隔離術で、カテーテルアブレーション治療(高周波エネルギーを通電して焼く)とクライオバルーン治療(亜酸化窒素ガスを使用してバルーンで冷却焼却する)があります。
通常、4~5 日程度の入院が必要です。

心室細動

心室が細かく震えている状態で、拍動することができず心停止状態になります。
心室細動になると脳への血液供給も不足し、発症から6秒で気を失い、3分で脳は重いダメージを受けます。
突然に意識を失い呼吸がない人を発見したら、直ちに心臓マッサージ(胸骨圧迫)を行い、AED(自動体外式除細動器)を使用する必要があるのはこのためです。
心臓に病気がある人(心筋梗塞や心筋症、重症の心不全、大動脈狭窄症など)や心室頻拍がある人は心室細動を起こしやすく、遺伝的な要因もあるので血縁者が不整脈で突然死した人がいる場合は注意が必要です。

心室細動の非薬物治療

植込み型除細動器(ICD)

ICD は、拍動を監視し、心室頻拍や心室細動が起こると自動的に電気ショックを与えて拍動を正常に戻します。
ペースメーカーと同様の手術で、本体の植え込みとリード線を留置します。7〜10日程度の入院が必要です。
植え込み後は数カ月に1回程度、ICDの電池残量の確認などのための定期検査が必要ですが、遠隔モニタリングができるICDでは自宅でチェックを受けることもできます。
電池寿命は5~10年程度で、作動頻度が多いと短い期間での電池交換手術が必要となります。

【参考資料】

  • 不整脈薬物治療ガイドライン(2020年改訂版):日本循環器病学会
  • 心不全療養指導士認定試験ガイドブック:日本循環器学会、南江堂、2020年
  • 不整脈の薬物療法:月間薬事、Vol62,No.15:2020年

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