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心不全通信 No.8「心不全の人の食事」
心不全通信 No.8 2022年6月号を公開しました。
心不全は「心臓が悪いために、息切れやむくみが起こり、だんだん悪くなって、生命を縮める病気」です。坂道や階段での息切れは、年齢のせいではなく心不全かもしれません。
今回は、「心不全の人の食事」について説明します。
- 心不全とは
- 心臓に良い食事パターン
- 食事バランスガイドを活用しましょう
- 朝食を摂り、遅い時間の夕食は避けましょう
- 心不全の食事療法の目標
- 食品の心臓への影響
心不全とは
心不全は「心臓が悪いために、息切れやむくみが起こり、だんだん悪くなって、生命を縮める病気」です。坂道や階段での息切れは、年齢のせいではなく心不全かもしれません。
今回は、「心不全の人の食事」について説明します。
心臓に良い食事パターン
日常的な食事は種々の食品の組み合わせなので、個別の栄養素だけでなく、摂取する食品の組み合わせ(食事パターン)にも配慮することが大切です。
心血管イベントの予防に有用な食事パターンには、地中海沿岸諸国の地中海食や米国国立衛生研究所が推奨するDASH食などがあり、日本食パターンも心血管死のリスクを低下させます。
和食はユネスコ無形文化財に登録され、健康食としても世界的に注目されていますので、減塩を加味した日本食パターンの食事もお勧めです。
地中海食 | 魚,野菜,果物,ワイン,全粒穀物,オリーブ油,ナッツを多く含む食事 |
DASH食 | 野菜,果物,低脂肪の乳製品を多く摂り,肉類,菓子類,砂糖を含むソフトドリンクを減らす食事 |
日本食パターン The Japan Diet |
肉,油脂の摂取が少なく,大豆,魚,野菜,海藻,キノコ,果物などの摂取が多い食事 |
食事バランスガイドを活用しましょう。
栄養のバランスの良い食事は、心不全などの心疾患や糖尿病、高血圧、脂質異常症、脳血管障害、がんなどの生活習慣病の予防や悪化予防になります。
厚生労働省と農林水産省が発表した「食事バランスガイド」を参考にすると簡単に日本食パターンの栄養のバランスの良い食事を実践できます。
この「食事バランスガイド」は、食品を主食、副食、主菜、牛乳・乳製品、果物の5 つに分け、それぞれを1 日にどれくらい食べたら良いかを示しています。
朝食を摂り、遅い時間の夕食は避けましょう。
朝食を抜く人は肥満、糖尿病の発症、心血管イベントが増し、朝食を抜くことに加え遅い時間に夕食を摂る人はメタボリックシンドロームのリスクが高まります。
心不全の食事療法の目標
過不足のない適切な栄養やエネルギー摂取と健康的な体重の維持により、心不全が増悪しないようにすることが、心不全の食事療法の目標となります。
ただし、心不全は悪くなったり良くなったりを繰り返して次第に心機能や身体機能も低下し、栄養状態も悪化して、終末期に近づいて行きますので、その時期により心不全の食事療法は、その目標・注意点などが異なってきます。
塩分
塩分の過剰摂取は血圧を上昇させ心血管病のリスクを高め、体液貯留の原因となるので、1日6g未満にすることが推奨されています。
特に心不全では塩分の摂りすぎが心不全悪化の原因となることがあるので、塩分の過剰摂取にならないようにすることが重要です。
ただし、高齢者で塩分制限によって食事が味気なくなり食欲がなくなるようであれば、エネルギー確保を優先し、塩分制限にこだわるべきではないとも考えられており、このような時は主治医に確認してください。
水分制限
心不全での水分制限について明確な指標はないので、医師の指示がない限り、過剰な摂取を控えることで良いです。
1日に必要な水分量は、食事中の水分も含めて30~40mL/kg/日ですが、これは年齢によって異なり、75歳以上では少なくとも25mL/kg/日は摂るべきとされています。
高齢者では加齢とともに口渇中枢の働きが低下するので、環境や体調によって水分摂取を勧めるなどの支援も必要です。
カロリー(エネルギー)
カロリーの摂りすぎは、体重の増加につながります。
WHO はBMI が25kg/m2 以上を過体重、30kg/m2 以上を肥満としていますが、日本人ではBMIが25kg/m2を超えたあたりから耐糖能障害、脂質異常症、高血圧などが増えてくるので、25kg/m2以上を肥満としています。
心臓のポンプ機能が保たれた心不全は肥満の人に多いという研究もありますが、BMI が18.5kg/m2 未満のやせた人は脳梗塞、脳出血のリスクが高くなるので痩せすぎにも注意が必要です。
成人以降の体重増加も冠動脈疾患のリスクとなります。
20 歳代にBMI が21.7kg/m2 未満であった人が、その後10kg以上体重が増加すると冠動脈疾患のリスクが2 倍に増えるので、成人早期から普通体重(18.5~24.9kg/m2)を維持するようにするべきです。
タンパク質
中等症以上の腎機能障害がなければ、慢性心不全などでは1.2~1.5g/kg/日のタンパク質を摂取すると良いでしょう。
中等症以上の腎機能障害がある時は、サルコペニア(高齢期にみられる骨格筋量の低下と筋力や身体機能の低下した状態)やフレイル(年をとって体や心のはたらき、社会的なつながりが弱くなった状態)にならないように30kcal/kg/日以上の十分なエネルギーと0.6~0.8g/kg/日のタンパク質を摂取すると良いでしょう。
脂質
ヒトは脂質、炭水化物、タンパク質からエネルギーと摂っており、脂質から得るエネルギーの割合を「脂肪エネルギー比率」といいます。
脂肪エネルギー比率が高くなると心臓病、メタボリックシンドローム、肥満のリスクが高くなります。
脂質はエネルギー源であると同時に細胞膜を作る必須の成分でもあり、脂質をつくる脂肪酸の種類によって身体への影響は大きく異なります。
飽和脂肪酸
飽和脂肪酸は、肉などの動物性脂肪や乳製品、パーム油などの植物油脂に多く含まれています。
動脈硬化への影響は少ないとの研究もあるのですが、LDL コレステロールを増加させ心筋梗塞を起こしやすくするので、過剰な摂取は控えるべきでしょう。
しかし、極端に減らすと脳出血が起こりやすくなるので、極端に摂取を減らすべきではありません。
不飽和脂肪酸(一価不飽和脂肪酸)
オレイン酸が代表的なもので、動物性脂肪やオリーブ油などに多く含まれています。
飽和脂肪酸よりLDL コレステロールを上昇させにくいので、心血管予防効果が“ある”という研究と“ない”という研究があります。
オリーブ油から一価不飽和脂肪酸を摂った場合には心血管死が減少したが、動物や植物から摂った場合には効果がなかったという研究もありますので、どのような食品から一価不飽和脂肪酸を摂取するかも重要なようです。
不飽和脂肪酸(多価不飽和脂肪酸 – ω3系不飽和脂肪酸)
ω3 系不飽和脂肪酸には、食用油由来のα-リノレン酸と魚介類由来のEPA、DHA があります。
EPA は二次予防効果(冠動脈疾患にかかったことがある人が再び冠動脈疾患に罹らないようにする効果)があるとされていますが、これらの報告は古い研究が多く、近年実施された研究では有効性が示されておらず,効果は限定的かもしれません。
また冠動脈疾患にかかったことがない人でも冠動脈イベント発生を抑制できるどうかについてはよくわかっていません。
不飽和脂肪酸(多価不飽和脂肪酸 – ω6系不飽和脂肪酸)
リノール酸が代表的なもので、大豆油やコーン油などの植物油に多く含まれています。
リノール酸は心血管疾患発症の予防に有用なのですが、ω6 系不飽和脂肪酸は体内で炎症を引き起こす物質(プロスタグランジン、ロイコトリエンなど)に変化して、冠動脈疾患を増やす可能性もありますので、過剰な摂取はさけるべきでしょう。
不飽和脂肪酸(多価不飽和脂肪酸 – トランス脂肪酸)
トランス脂肪酸を多量に摂取すると、HDL コレステロールが減少し、LDL コレステロールが増加して冠動脈疾患のリスクが高まるので、WHO はトランス脂肪酸の摂取量を総エネルギー摂取量の1%未満とするよう勧告しています。
この勧告に従うと、日本人では1 日あたり約2g未満となりますが、日本人が摂取しているトランス脂肪酸の量は0.9g 程度であり、健康への影響は少ないと考えられています。
近年、脂質を摂りすぎている人が増えてきています。
脂質エネルギー比率が高くなるとトランス脂肪酸の摂取も増える可能性がありますので、脂質の摂りすぎにならにようにしましょう。
食品の心臓への影響
魚
魚は積極的に摂取するべきで、ω3 系不飽和脂肪酸のエイコサペンタエン酸(EPA)やドコサヘキサエン酸(DHA)を多く含む青魚などは、冠動脈疾患の予防に有用です。
週に8 回魚を摂取する人は、週に1 回だけの人と比べ、冠動脈疾患のリスクが37%少ないことやω3 系不飽和脂肪酸の摂取量が多いほど心血管死亡率が少なくなるとの研究があります。
赤身肉
肉の過剰摂取は心血管疾患のリスクになると言われていましたが、日本人の肉の摂取量程度(100 g/日未満)では心血管死は増加しないと考えられるようになっています。
ただし、動物性脂肪(飽和脂肪酸)の過剰摂取はコレステロールを上昇させる要因となるので、脂肪が少ない赤身肉を選ぶほうが良いです。
また、過度に肉食を控え飽和脂肪酸の摂取量が少なくなりすぎると脳血管障害のリスクが増えるので、適度な摂取が良いです。
加工肉
ハムやソーセージなどの加工肉を1日75g以上(ソーセージ1本15g として5本以上、スライスハム1枚10gとして7枚以上)摂取する人は、1日25g未満の人と比べて、心不全発症リスクが1.28倍、心不全死亡リスクが2.43倍増えるとの研究がありますので、過剰摂取には気をつけましょう。
野菜、果物
野菜、果物はビタミン、ミネラル、繊維質を豊富に含み、心血管死の減少に有用との報告があり、野菜、果物が一品食卓に増えることで心血管死のリスク低下につながります。
全粒穀物
全粒穀物(糠となる部位を除去していない穀物やその製品)は、食物繊維、ビタミン、ミネラルなどを多く含み、冠動脈疾患の予防や心血管死のリスク減少効果があります。
ナッツ
ナッツは不飽和脂肪酸、繊維質、ビタミン、ミネラルを豊富に含み、冠動脈疾患の発症リスクを減少させるとの研究があります。
アルコール
アルコールは心毒性を有することから、過剰な摂取はアルコール性心筋症のリスクとなりますが、軽度のアルコール摂取は心不全発症のリスクを低下させます。
心血管予防のために飲酒習慣のない人が飲酒する必要はありませんが、飲酒習慣がある人では、純アルコールで1日30g未満の摂取にとどめると良いでしょう。
清涼飲料水(加糖飲料)
清涼飲料水や加糖飲料の多量摂取は、過剰エネルギーにつながり、肥満、糖尿病のリスクを高めます。
カロリーゼロを謳った人工甘味料を使用した清涼飲料水も糖尿病の発症に関与する可能性があるので、注意が必要です。
次回は、「人生会議と心不全の緩和ケア」について説明します。
【参考資料】
- 心不全療養指導士認定試験ガイドブック,日本循環器学会,南江堂、2020年
- 心不全患者における栄養評価・管理に関するステートメント,日本心不全学会ガイドライン委員会,2018年
- 農林水産省ホームページ,トランス脂肪酸について
- 厚生労働省ホームページ,「食事バランスガイド」について
- 日本サルコペニア・フレイル学会ホームページ
- 食べて元気にフレイル予防,厚生労働省 令和元年度食事摂取基準を活用した高齢者のフレイル予防事業
心不全通信 No.7「心不全でも運動は大切!」
心不全通信 No7 2022年2月号を公開しました。
心不全とは
心不全は「心臓が悪いために、息切れやむくみが起こり、だんだん悪くなって、生命を縮める病気」です。
坂道や階段での息切れは、年齢のせいではなく心不全かもしれません。
今回は、「心不全でも運動は大切!」について説明します。
- 心不全とは
- 心不全は予防できることもある
- 心不全でも運動は大切
- 運動耐容能に基づいた運動処方
- 運動耐容能の評価
- 心不全の運動療法
- 心不全の運動療法を安全に行うために
- 記録は大切
心不全は予防できることもある
心不全を引き起こす病気や食事・運動などの生活習慣に適切に対応することで、心不全を予防し、悪化・再発を回避することができる場合があります。
たとえば、高血圧を治療すると心不全の発症を抑制し生命予後を伸ばすことができます。
冠動脈疾患や肥満・糖尿病の適切な生活習慣の改善や治療は心不全の発症予防と生命予後の改善のために大切です。
禁煙は心不全の死亡率や再入院率を軽減し、飲酒者の適量の飲酒習慣は心不全の発症を抑制するとのデータがあります。
とはいえ、飲酒習慣がない人が無理に飲酒する必要はなく、飲みすぎは心不全だけでなく身体にとっても良くないです。
また、適度な身体活動や運動習慣は心不全の発症を抑制します。
心不全でも運動は大切
以前は、心臓に病気がある人は絶対安静が基本でしたが、過剰な安静は身体機能の低下をもたらし寿命を短くすることが明らかになったので、現在では、適度な運動をすることが勧められています。
運動耐容能に基づいた運動処方
運動療法は、運動の種類、運動の強さ、運動の時間、運動の回数などによって心臓への負担が異なります。
そのため、心不全の運動療法を安全に実施するには、心不全の状態に応じた個別の適切な運動、すなわち、その人の運動耐容能に応じた運動を「運動処方」に基づいて実施すべきです。
自己判断による不適切な運動は危険な場合もあります。
運動耐容能の評価
心不全の人の運動耐容能を評価する方法には、心肺運動負荷試験と6分間歩行試験などがあります。
心肺運動負荷試験
自転車エルゴメーターやトレッドミルなどを用いて運動しながら同時に呼気ガス分析を行って運動耐容能を評価する方法で、特別な装置が必要です。
当院で実施することはできませんが、この検査が必要な方には、川崎医科大学循環器内科に依頼して実施しています。
6 分間歩行試験
特別な設備を必要としない評価方法です。
最大に努力して6 分間で歩行できる距離を測定する方法です。
当院でも実施しています。
心不全の運動療法
心不全の運動療法(心臓リハビリテーション)は、心不全の悪化による再入院を防ぐことを目的に行います。
心不全だけに限りませんが、運動療法はウォームアップ、主運動、クールダウンから構成されます。
ウォームアップ(準備体操)
身体を安静から運動へ移行させる準備で、骨格筋を収縮・進展させ、血液循環を促します。
ウォームアップで実施されるストレッチングは、筋肉・靱帯・腱などやそれらを互いに結合する組織の伸展性を高め、関節の可動域を広げます。
ストレッチングは、静的なストレッチングと動的なストレッチングを組み合わせることが好ましく、静的なストレッチングは「気持ち良い」と感じるくらいの強さで、ひとつの動作を30秒程度実施することが望ましいです。
主運動 有酸素運動とレジスタンス運動
心不全の運動療法では、有酸素運動とレジスタンス運動を併用して行います。
有酸素運動
心肺運動負荷試験のデータに基づいて行うのが好ましいです。
ウォーキング、自転車エルゴメーター、軽いエアロビクスなどが勧められます。
ジョギング、スイミング、テンポの速いエアロビクスダンスなどは好ましくないです。
5~10分程度の短い時間から開始し、徐々に目標の運動時間まで少しずつ増やし、安定期にある心不全では1日20~60分まで運動時間を増やします。
頻度は、心臓機能の程度により異なり、週3~5回程度が好ましいとされています。
レジスタンス運動
一般的には「ややきつい」と感じるレベルで行います。
軽量のダンベルを利用したものや特別な器械や器具を必要としない自重負荷による方法などがあります。
低強度の運動から始め、心不全の徴候がなければ徐々に適切な運動強度まで少しずつ増します。
息こらえをしながら行うと過度な血圧上昇を引き起こすことがあるので、声を出して数を数えながら実施するなど息をとめないように行うのがコツです。
毎日行わず、週2~3回程度、1日おき程度での実施が好ましいとされています。
クールダウン(整理体操)
運動終了後の過度の血圧低下や目眩などの自覚症状の出現を回避するために必要です。
低負荷の運動やストレッチングなどの整理体操により、徐々に安静時の心拍数や血圧に戻すために行う運動です。
心不全の運動療法を安全に行うために
運動してはいけない時
息切れが悪化している、安静にしていても息が切れる、体重やむくみが増している、動悸、倦怠感、めまい、食欲不振があるなど心不全の悪化を疑う自覚症状や身体所見があるときは運動療法をしてはいけません。
運動は家族・友人と一緒に行う
高齢者の心不全では、運動耐容能が低く、持続的な有酸素運動が困難な場合が多いので、有酸素運動よりレジスタンス運動の重要性が高くなります。
また、運動療法中の心血管イベント発生リスクが若い人より高いので、はじめは病院や施設などのリハビリスタッフがいる環境で行います。
安全に運動療法を行うことができると確認された人は、自宅でも運動療法(運動処方に基づくことが望ましい)を行います。
その場合でも、心血管イベントの発生に備えて、家族や友人などと一緒に行う方がより好ましいです。
運動は食後2時間程度経過してから行う
食事直後は、食物の消化・吸収のため腸管の血液の需要が増加するので、食事直後に運動すると腸管や骨格筋への血液の需要に対する血液の供給が不足して心不全の徴候の出現や心不全の増悪を招く危険性があります。
そのため、食後2時間程度経過してからの実施が好ましいです。
ウォームアップとクールダウンは必ず行う
安全に心不全の運動療法を実施すために、運動を始める時にはウォームアップを、運動を終わる時にはクールダウンを必ず行います。
安静時の状態に戻らない時は主治医に相談
運動療法終了後も血圧や脈拍数が安静時の値まで改善しない、疲労感や呼吸困難感が残っている場合は、心不全の増悪や運動が過度になっている可能性がありますので、主治医にご相談ください。
気温や湿度にあった服装
運動を実施する際には気温や湿度などの環境に合わせた服装で運動します。
特に、気温が高い夏季では発汗の透過性を保てるものが、気温が低い冬季では保温にも配慮した服装が好ましいです。
脱水にならないように水分摂取する
発汗による脱水を回避するために、水分摂取をこまめに行います。
記録は大切
安全に運動療法を行うために、心拍数、血圧、脈拍などを計測しながら行うようにします。
また、心不全の増悪の徴候を早期に発見するために、脈拍数、血圧、体重、食欲や疲労感などの自覚症状の推移の記録をつけることが好ましいです。
記録する方法には、心不全手帳などに記入する方法以外に、スマートフォンを利用した簡便な方法もあります。
興味のある方は、岡本医師(心不全外来担当)に、ご相談ください。
【参考資料】
- 心血管疾患におけるリハビリテーションに関するガイドライン(2021年改訂版):日本循環器学会
- 急性・慢性心不全診療ガイドライン(2017年改訂版):日本循環器学会
- 心不全療養指導士認定試験ガイドブック:日本循環器学会、南江堂、2020年
- 心不全の心臓リハビリテーション改訂版:ジャパンハートクラブ編
- 心不全手帳(第2版):日本心臓財団
ホームページ
- 川崎医科大学循環器内科
- 日本心臓財団
- SaluDi:沢井製薬
医療事務(常勤)の方の募集中です。
年末年始休診のお知らせ
こんにちは。みわ記念病院から年末年始休診のご案内です。
令和3年12月27日(月)まで通常通り診療
月 | 日 | 午前 | 午後 |
---|---|---|---|
12月 | 28日(火) | 診療 | 休診 |
29日(水) | 診療 | 診療 | |
30日(木) | 休診 | 休診 | |
31日(金) | 休診 | 休診 | |
1月 | 1日(土) | 休診 | 休診 |
2日(日) | 休診 | 休診 | |
3日(月) | 休診 | 休診 | |
4日(火) | 診療 | 休診 |
令和4年1月5日(水)より通常通り診療
ご迷惑をおかけいたしますが、ご協力をよろしくお願いいたします。
心不全通信 No.6「心不全の原因となる不整脈に対する非薬物療法」
心不全通信 No6 2021年10月号を公開しました。
心不全とは
心不全は「心臓が悪いために、息切れやむくみが起こり、だんだん悪くなって、生命を縮める病気」です。
坂道や階段での息切れは、年齢のせいではなく心不全かもしれません。
今回は、心不全の原因となる不整脈に対する非薬物療法について説明します。
- 心不全とは
- 心臓が拍動するしくみ
- 不整脈とは
- 期外収縮(脈がとぶ)
心臓が拍動するしくみ
心臓は1日に約10万回も拍動してポンプ機能をはたしています。
心臓のなかを電気信号がタイミングよく、一方通行で伝わることによって、心臓は規則正しく拍動し、それが“脈”として観察されます。
この電気信号は、心房にある洞結節でつくられ、心房を収縮させた後、房室結節などの刺激伝送系(心臓にある電線のようなシステム:洞結節→房室結節→ヒス束→右脚・左脚→プルキンエ線維)によりタイミングよく心房から心室へと伝えられて、心臓は拍動します。
不整脈とは
不整脈は、心臓の拍動(収縮と弛緩の繰り返し)が不規則だったり、遅くなったり、速くなったりすることよって、脈が不規則になったり(期外収縮)、遅くなったり(徐脈)、速くなったり(頻脈)するものです。
脈は、息を吸うと速くなり、吐くと遅くなり、運動や体温の上昇で速くなりますが、これは生理的な正常な反応で、不整脈ではありません。
期外収縮(脈がとぶ)
期外収縮は、もっとも多い不整脈で、30歳を過ぎるとほとんどの人にみられ、年齢に従って増えてきます。
期外収縮には、心房性期外収縮(電気信号が洞結節以外の心房から発生)と心室性期外収縮(電気信号が心室から発生)があります。
いずれの期外収縮も脈が1回とんだように感じます。
これは、通常より早く心臓が収縮することで、押し出される1回分の血液の量が少なくなり、脈として感じることができなかったためです。
期外収縮があっても、多くの場合で何も症状はありませんが、喉や胸の不快感、動悸、キュッとしたごく短時間の胸の痛みを感じることもあり、連続して起こると一時的に血圧が下がって、めまいや動悸を感じることもあります。
期外収縮は自律神経のバランスが崩れた時に起こることが多く、睡眠不足、過労、ストレス、アルコールやカフェイン飲料の摂りすぎなどが誘因となり、年齢や体質的な理由で起こります。
多くの場合で病気とは関係ありませんが、期外収縮から危険な不整脈になる可能性がないか調べておいた方がよいでしょう。
徐脈(脈が遅い)
脈拍数が50 回/分より少ないのが徐脈です。
主な原因は、「洞結節」や「房室結節」に起こった電気信号の異常です。
電気信号がつくられなかったり、電気信号が途中でストップしたりするために起こります。
加齢や動脈硬化の進行している人で起こりやすく、甲状腺ホルモンの分泌低下や薬の副作用で起こることもあります。
直接的に生命に関わることはありませんが、息切れやだるさ、足のむくみなどの症状があり、脳への血流が不足するとめまいや失神を起こすこともあります。
洞不全症候群
右心房にある洞結節に異常が生じ、心臓を動かす電気信号が極端に少なくなったり、発生しなくなったりした状態です。
房室ブロック
房室結節に異常が生じて心室に電気信号がうまく伝わらなくなった状態です。
房室ブロックでは非常に不規則な脈になり、失神や心不全、突然死を起こすこともあります。
徐脈の治療
多くの場合で生命に関わることはないので、自覚症状がなければ経過観察のみで特に治療をしないことが多いです。
徐脈により失神を起こす場合や息切れや倦怠感のために日常生活に強く支障がある場合には、ペースメーカーが必要となることもあります。
ペースメーカー
ペースメーカーは鎖骨下あたりの胸部皮下に植え込んだ本体と心臓内に留置したリード線からなり、本体で電気刺激を一定リズムで発生させ、リード線を通して心臓に伝えて心臓を拍動させます。
以前はできなかったMRI撮影に対応したものやリード線がない直接心臓内に植え込むカプセル型のリードレスペースメーカーもあります。
手術は2~3時間程度で、1週間程度の入院が必要です。
植え込み後は3〜6ヶ月に1回外来でチェックをしますが、遠隔モニタリングで自宅でのチェックも可能です。
電池寿命は10 年程度で、電池がなくなると本体を交換します。
心臓再同期療法(CRT)
心不全や心筋梗塞では、しばしば心臓内を電気信号がタイミングよく伝わらないために心臓の収縮タイミングのズレが起こり心臓のポンプ機能が低下します。
CRT は心臓の収縮のタイミングを修正(再同期)することでポンプ機能を改善させる重症の心不全専用のペースメーカーです。
ペースメーカーと同様の手術で、本体の植え込みとリード線を留置します。
心不全が安定している場合で、7〜10日程度の入院が必要です。
電池の寿命はCRT の作動状況により異なり、2~8年程度です。
頻脈(脈が速い)
脈拍数が100回/分より多いのが頻脈です。
電気信号が異常に早くつくられたり、異常な電気信号の伝達路ができたりして電気信号が空回りすることで起こります。
頻脈には「頻拍」と「細動」があり、電気信号の発生が100回/分以上のものが頻拍、250回/分以上のものが細動です。
細動では、電気信号が速すぎて心臓が対応しきれず、拍動が不規則で弱くなります。
心房に細動が起こるのが「心房細動」、心室に細動が起こるのが「心室細動」です。
心房細動は脳梗塞を、心室細動は突然死を起こす危険性があり、もっとも危険なタイプの不整脈です。
心房細動
心臓は洞結節から出る電気信号により60~100回/分程度のリズムで動いていますが、心房細動では、複数の電気信号が心房内を走り回って、400~600回/分の速さで心房が細かく震えるような状態になっています。
約半数の方には症状がなく、脈の乱れ、動悸、めまいなどを感じることもあります。
直接的に生命に関わることはありませんが、心房細動がある人は、脳梗塞が5倍程度、心不全が4倍程度、心房細動がない人より起こりやすくなります。
心房細動の治療
薬物療法
抗不整脈薬により症状の緩和はある程度できますが、心房で起こる異常な電気信号の発生を抑え完全に心房細動を予防することはできません。
薬の種類により、心機能の低下、徐脈、血圧低下などの副作用があり、心不全を悪化させることもあります。
肺静脈隔離術
心房細動の原因となる異常な電気信号は主に肺静脈あたりから起こります。
異常な電気信号が心臓全体に伝わらないように、電気信号の通路を遮断するのが肺静脈隔離術で、カテーテルアブレーション治療(高周波エネルギーを通電して焼く)とクライオバルーン治療(亜酸化窒素ガスを使用してバルーンで冷却焼却する)があります。
通常、4~5 日程度の入院が必要です。
心室細動
心室が細かく震えている状態で、拍動することができず心停止状態になります。
心室細動になると脳への血液供給も不足し、発症から6秒で気を失い、3分で脳は重いダメージを受けます。
突然に意識を失い呼吸がない人を発見したら、直ちに心臓マッサージ(胸骨圧迫)を行い、AED(自動体外式除細動器)を使用する必要があるのはこのためです。
心臓に病気がある人(心筋梗塞や心筋症、重症の心不全、大動脈狭窄症など)や心室頻拍がある人は心室細動を起こしやすく、遺伝的な要因もあるので血縁者が不整脈で突然死した人がいる場合は注意が必要です。
心室細動の非薬物治療
植込み型除細動器(ICD)
ICD は、拍動を監視し、心室頻拍や心室細動が起こると自動的に電気ショックを与えて拍動を正常に戻します。
ペースメーカーと同様の手術で、本体の植え込みとリード線を留置します。7〜10日程度の入院が必要です。
植え込み後は数カ月に1回程度、ICDの電池残量の確認などのための定期検査が必要ですが、遠隔モニタリングができるICDでは自宅でチェックを受けることもできます。
電池寿命は5~10年程度で、作動頻度が多いと短い期間での電池交換手術が必要となります。
【参考資料】
- 不整脈薬物治療ガイドライン(2020年改訂版):日本循環器病学会
- 心不全療養指導士認定試験ガイドブック:日本循環器学会、南江堂、2020年
- 不整脈の薬物療法:月間薬事、Vol62,No.15:2020年
ホームページ
- 川崎医科大学循環器内科
- 国立循環器病研究センター循環器病情報サービス
- NHK健康チャンネル
- 心臓血管病アトラス(トーアエイヨー社)
- 大阪医科大学外科学講座胸部外科学教室
- 心臓病センター榊原病院
- 日本心臓財団
- 名古屋徳洲会総合病院心臓血管外科
心不全通信 No.5「心不全の原因となる冠動脈狭窄と心臓弁膜症に対する非薬物治療」
心不全通信 No5 2021年7月号を公開しました。
心不全とは
心不全は「心臓が悪いために、息切れやむくみが起こり、だんだん悪くなって、生命を縮める病気」です。
坂道や階段での息切れは、年齢のせいではなく心不全かもしれません。
今回は、心不全の原因となる冠動脈狭窄と心臓弁膜症に対する非薬物治療について説明します。
冠動脈狭窄に対する治療
冠動脈とは
心臓は全身に血液を送るとともに、心臓自体の筋肉に向けても血液を送っています。
その血管を冠動脈といい、大きく分けて右冠動脈、左冠動脈前下行枝、左冠動脈回旋枝の3本の枝に分かれています。
動脈硬化によって冠動脈の壁にコレステロールが蓄積して内腔が狭くなると、その下流の心臓の筋肉に十分な量の血液が流れなくなり、胸の痛み(狭心痛)を感じたり、心臓の働きが悪くなったりします。
経皮冠動脈インターベンション(PCI)
PCI(ピーシーアイ)は、狭くなったり詰まったりしている冠動脈(心臓の筋肉を栄養する血管)を、手首や足の付け根の動脈からカテーテルを挿入して、バルーンやステントという金具で広げる治療です。
2〜3日くらいの入院が必要です。
冠動脈バイパス術(CABG)
CABG(シーエイビージ)は、冠動脈の狭窄があるところを迂回させて冠動脈の血液の流れを改善するために体内の他の場所から迂回させるための血管(グラフト)を移植します。どの血管を用いるかは、狭窄のある冠動脈の状況によって違います。
病変の場所や程度によって、1ヶ所だけでなく、複数ヶ所に血管を移植することがあります。
合併症や併存疾患のために長引かない限り、2週間くらいの入院が必要です。
弁膜症に対する治療
心臓の4つの弁
心臓は、4つの部屋(右心房、右心室、左心房、左心室)に分かれていて、全身に血液を送っています。
全身に血液を送り出す時に、心臓の収縮や拡張によっても血液が逆流しないように、4つの弁(大動脈弁、僧帽弁、大動脈弁、三尖弁)があり、この弁により血液は心臓の4つの部屋を一方通行で流れます。
心臓弁膜症には「狭窄」と「閉鎖不全」ある
心臓弁膜症には、弁の開きが悪くなって血液の流れが悪くなる「狭窄」と、弁の閉じ方が不完全で血液が逆流する「閉鎖不全」の2つのタイプがあります。
大動脈弁狭窄症
左心室と大動脈の間にある大動脈弁が加齢や動脈硬化などで硬くなり、うまく開かなくなっているのが、大動脈弁狭窄症です。
軽症のうちはほとんど症状がありませんが、進行してくると胸が痛くなる(狭心痛)、息切れ、動悸、むくみ、つかれやすい(心不全の症状)、意識を失う(失神)などの症状がでてきます。
経カテーテル的大動脈弁留置術(TAVI)
TAM (タビ)は、開胸手術をすることなく、カテーテルで大動脈弁狭窄を治療する方法です。
足の付け根の最径部からカテーテルを挿入し、折りたたんだ人工弁を大動脈弁の位置に運び、バルーンを膨らませて人工弁を留置します。1週間くらいの入院が必要です。
僧帽弁閉鎖不全症
左心房と右心房の間にある僧帽弁がうまく閉まらなくなって血液が左心室から左心房へ逆流してしまうのが僧帽弁閉鎖不全症です。
心臓は全身に十分な血液を運ぶことができないので、惓念感、息切れ、動悸、呼吸困難、顔面や下肢の浮腫などの症状がでて、心不全の原因となります。
病気が進行して心臓の機能障害が進むと内科的治療を受けていても、日常活動能力の改善や術後の心臓の回復に影響がでます。
僧帽弁閉鎖不全の治療の基本は開胸手術です。
高度の血夜の逆流があって、それが心不全の原因である時は、適切なタイミングで手術治療が必要です。
合併症や併存疾患のために長引かなければ、2週間くらいの入院が必要です。
経皮的僧帽弁接合収縮システム(MitraClip)
MitraClip(マイトラクリップ)は、大腿の静脈からカテーテルを挿入して、心室中隔を介してデバイスを左心房に運び、僧帽弁の前と後の接合が悪い隙間をクリップで閉じることで、僧帽弁の逆流を減少させる治療です。
MitraClipは、開胸手術が難しい時に検討する治療法です。
【参考資料】
ホームページ:
- インフォームドコンセントのための心臓・血管病アトラス(トーアエイヨー社)
- 急性心筋梗塞.com(日本心血管インターベンション治療学会)
- 川崎医科大学循環器内科
- 九州大学病院心臓血管外科
- 国立循環病研究センター病院
- 千葉大学病院心臟血管外科
- 倉敷中央病院心臓病センター循環器内科
- 心臓病センター榊原病院
- 日本心臓財団
- Abott社 経皮的総望遠接合不全修復システム-MitraClip NTシステム
書籍等:
- 経カテーテル的大動脈弁植込み術(TAV)を受けられる患者さんとご家族へ(日本メッドトロニクス社患者向け冊子)
- 心不全療養指導士認定試験ガイドブック、日本循環器学会、南江堂, 2020年
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心不全通信 No.4「心不全増悪の誘因」
心不全通信 No4 2021年4月号を公開しました。
心不全とは
心不全は「心臓が悪いために、息切れやむくみが起こり、だんだん悪くなって、生命を縮める病気」です。
心不全は完治することはなく、悪化と緩解を繰り返しながら、少しずつ進行してゆきます。
心不全の進行を遅らせるには、心不全の悪化を繰り返さないことが大切です。
心不全増悪の誘因
心不全増悪の誘因には、医学的誘因と生活関連誘因があります。
医学的誘因
心臓自体への血液の供給不足
動脈硬化があると心臓自体への血液の供給に不足を起こすことがあります。
動脈硬化に繋がる高血圧、糖尿病、脂質異常症などをきちんと治療し、禁煙することが大切です。
不整脈
不整脈には危険性の低いものとそうでないものがあります。
危険性の高い不整脈の1つに心房細動があります。
不整脈に伴う症状(突然の動悸、脈が飛ぶ・乱れる、めまい、ふらつき、急に目の前が暗くなる、意識がなくなるなど)がある時は受診しましょう。
貧血
貧血があると全身に必要な酸素の供給が不足し、全身倦怠感や疲れやすくなります。
慢性腎臓病の合併によるエリスロポエチン(赤血球を作る指定を出している物質)の低下、骨髄の造血能力の低下、鉄の欠乏などが貧血の原因です。
貧血の傾向がある時は、鉄分の多い食品を食べるように心がけましょう。
感染症
感冒やインフルエンザ、肺炎、膀胱炎などの感染症にかかると心臓の機能を抑制することになり、心不全の増悪につながります。
インフルエンザワクチンや肺炎球菌ワクチンを接種して感染症を予防しましょう。
生活関連誘因
心不全のセルフケアにより、心不全増悪による入院の多くは回避することができます。
薬をきちんと飲まない
心不全の予後を改善する薬の中断は、心機能を低下させたり、心臓の負担(血圧上昇、頻脈など)を増したりして心不全を増悪させます。
薬を飲みたくない時、飲み忘れてしまう時は、医師・薬剤師・看護師に相談しましょう。
塩分の過剰摂取
塩分の摂取が増えると血液中の水分が増えて循環血液量が増えます。
循環血液量が増えると血液が上昇し、心臓への負担が増し、心不全が増悪することがあります。
慢性心不全の人の減塩目標は6g/日未満です。
上手に減塩する方法を知りたい時は、医師・看護師・管理栄養士に相談しましょう。
水分の過剰摂取
医師からの指示がなければ、厳密な水分摂取の制限は必要ありません。
1日尿量よりも飲水量が多いと循環血液量が増えて心臓の負担が増加するので、1日の尿量を超える飲水は控える方が良いでしょう。
活動しすぎ
適度な運動は、日常生活の維持・拡大に有効で、予後の改善にもつながります。
過度な活動な、心拍数を増やし、血圧を上昇させ、心臓への負担を増やして心不全を増悪させることがあります。
適切な活動量は心不全の状態によって異なります。
あなたにとって適切な運動量・活動量を知りたい時は、医師・看護師・理学療法士に相談しましょう。